第16話
「じゃ、行くよ。りゃーっ」
ミレイが変な掛け声を掛けてボールを手で打つと、ボールは見当違いな方向へ飛んでいった。
「マナデミチーム、1点」
「あのボール、誰が取りに行くの?」
「ちょーごめーん」
ボールが飛んでいった方向がマナたちのチームの側だったので、誰が取りに行くのかマナとミレイの間でやり取りになった。
「私、取りに行きます」
「いいよ。私が行ってくる」
空気を読んでデミが取りに行こうとしたところを、マナが止めて自分で取りに行った。次のサーブはマナだったから、自分で取りに行くのが筋だと思ったのだ。
「よし。じゃあ、今度はこっちから行くよっ」
「元気だな、お前は」
海が苦手なヘータはコートの外で香箱になり、観戦を決め込んでいた。普段ならあのくらいの運動は訳もないが、今は猫の本能を刺激されようとも、飛んでいったボールを走って追いかけるような気にはなれなかった。
さて、マナのサーブだけれども、普通に考えれば生産職志望で身体能力の低いミレイを狙うのがセオリーとなるのだけれど、それだと相手に攻撃も同様にデミに集中してしまって不利になってしまうと考えた。そこで、マナはミレイではなくバドルスの方を狙うことにした。ただし、ちょっとした工夫をして。
「バドルス!」
「なんだ?」
「勝負よ!!」
「望むところだ!!!」
こうやってバドルスを挑発しておけば、バカ正直なバドルスはデミの方ではなく自分の方を狙ってくるに違いない。なにせ、バカなのだ。
「マナ、魔法は禁止だからね」
「分かってるわ」
魔法使いとしての成果が華々しいのであまり知られていないが、マナは魔法なしでも身体能力が並外れている。それはシャーミルとの個人授業の組手の内容を見ても分かる。なので、ビーチバレーのルールに順応するのもそんなに時間は掛からなかった。
シュッ
2、3度素振りをして、ボールを軽く上に投げると、マナはジャンプして空中でボールを叩きつけた。鋭いジャンプサーブはバドルスの足元で跳ねてコートの外へと飛んでいった。
「ナイスですわ!!」
コートの脇でカメラを抱えるカルネがシャッターを切りながら叫んだ。これは休み明けの校内新聞にどんな記事が載るのやらとマナは頭が痛かった。
「ぐぬぬ。よし、次は僕が君にお見舞いする番だ。受けて見ろ」
「バドルス、まだサーブ権は私のものなんだけど」
「ぐぬぅ」
ルールをきちんと把握していなくて、ボールを持った自分の番だと勢い込んでサーブを打とうとしたバドルスに、マナが呆れ気味にボールを返すように言うと、バドルスは唸り声を上げてボールを投げてよこした。
それからマナは、立て続けにバドルスを狙ってポイントを取り続けた。
「なぜだ。なぜ取れないっ」
「あなたは動きがバカすぎるのよ」
「なんだと!」
「あ、違った。動きがバカ正直なのよ」
バドルスは、魔法組手の時もそうだけれども、動き自体はよいのだが騙し合いという意識がないのでとにかく先読みしやすく、フェイントに掛かりやすいのだ。なので、マナはバドルスを一方的に手玉に取り続けていた。
「マナ様、ちょっとルールを変更しませんか?」
「どういうふうに?」
「サーブを1球ずつ交代するのはどうですか?」
「それっ、ちょーいいかも」
あまりに一方的な展開を見かねたカルネが新しいルールを提案すると、やはりヤバいという表情をしていたミレイがいち早く賛成に回った。
「俺もそれがいいと思うよ」
「シシーが言うのなら……、しかし、ルールが……」
「あたしはどっちでもいいわ」
「私も皆さんにお任せします」
バドルスはルールを変えることに抵抗があったようだが、他が全員了承したので、サーブ権のルールを変更して1球ごとに順番に後退していくことになった。次はバドルスだ。
「これをこうやって投げて打つのだな。よし、分かった。いくぞ」
やや不安になる独り言をつぶやいてポジションに入ると、マナがやったようにボールを投げてジャンプサーブを放った。
バシュッ
さすがにバドルスは魔法だけでなく運動能力もそれなりにあったので、見よう見まねでありながらもそれなりに様になったジャンプサーブを放った。
「はい、デミ」
「えっ、はいっ」
「ふんっ」
シュッ
「ぬぉっ」
しかし、あっさりマナにレシーブを拾われて、逆にバドルスがアタックで狙われ1点を献上してしまった。
「行きます。えいっ」
続くデミのサーブは山なりに飛び、風を受けた軌道をよく見たミレイが手を出さずにボールアウトにしてようやく1点返した。
「よし。じゃあ、次は決めるよ」
次のサーブはさっき大ホームランを放ったミレイだ。気合を入れて腕をぶんぶん回して素振りをしているけれど、大丈夫だろうか?
「ミレイ、分かってると思うけど、この線の中に入れるんだからね」
「知ってるよっ」




