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第2章「契約」 - 01

 ふと目覚めると、そこは水の中のようだった。


 手足に触れるものは何もなく、ふわふわと漂うばかりで上下の感覚が乏しいが、明るい方が上なのだろうか。


 とにかく、上に向かおうと手足をばたつかせて泳いで行こうとするが、周囲に目印となるものが何もないので、本当に上に向かっているのかよく分からない。


 いや、むしろだんだん光から遠ざかっていくようだ。


 より一層力を込めて手足をばたつかせるが、一向に光に近づく気配もない。


 ひとしきり無駄な努力をして足元を見ると、何か暗い影のようなものが足に絡みついていた。


 なんだ、これじゃ上へなんていけないや。


 そう思うと、体は急に重量を増したようにどんどん下へと沈み始めた。


 光から遠ざかるにつれ、あたりはどんどん暗くなり、自分の手も見えなくなって、そこで意識が途切れた。



 「ふぁーぁ」


 トルン市の南にある駅から船着き場の間を結ぶ通りは市場いちば通りと呼ばれ、毎日、早朝から夕方まで市が立つ。


 扱っている内容は主に食料品がメインだが、新聞、雑誌や日用品などの雑貨類を扱っている店も少なくない。全て、船か鉄道で今日届けられたばかりの品物だ。


 そんな市場通りを見下ろす建物の屋根の上に、小さな子猫がいた。


 子猫は昼寝から目覚めて大きく前足を伸ばして伸びをして、市場通りの店を上から見下ろした。


 「今日はアジのフライかにゃ」


 そして、通りを隔てた向かいにある店の1つに狙いを定めると、その店先をめがけて大きく宙にダイブした。


 着地地点に人が出てきたが、慌てずにその人の頭を踏み台にして魚屋のアジの棚に乗ると、すばやく2尾を口にくわえてさっさと逃げ出した。


 「あ、あの野郎、また来やがった。ちょっと、お客さん、店番頼むわ」

 「え、えっ?」

 「待ちやがれ、この野郎!」


 子猫に気づいた店主が速攻で後を追いかけるが、子猫はその体格からは全く想像できない速度で人ごみを抜けていく。


 「こら、待てーー」


 ――待てと言われて待つバカがいるか。


 細い路地に飛び込んで、壁のわずかな凹凸を捕まえて一気に屋根に駆け上り、子猫は一息ついた。

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