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第1話

「ケディって誰にゃ?」

「魔法考古学の先生よ。前にシャーミル先生に紹介してもらったでしょ」

「覚えてないにゃ」


 子猫のヘータが相棒のマナにこれから向かう行先についてたずねたが、教えられた名前に聞き覚えはなかったが、シャーミルと言う名前には憶えがあった。マナが頻繁に教えを乞うている体術の先生だ。


 ヘータたちがいるのは、クプーティマ王国の北西部に位置するトルン市にあるトルニリキア学園だ。ここは王国随一の魔法学園であり、マナはその中等部に在籍する優秀な学生だ。


 どのくらいマナが優秀かと言うと、特別に優秀な学生に与えられるベルデグリの称号を中等部在籍中に授与されたほどだ。これは本来、どんなに早くても高等部、普通なら大学部で認定されるはずのもので、中等部で授与されるのは史上初めてのことだった。


 そのマナが自分の相棒として選んだのが子猫のヘータだ。


 ヘータの能力は一般にはその一部しか公開していないが、実は子猫であるにもかかわらず魔法が使える。魔法とは、研究レベルでも知性体でなければ使えないと信じられていて、知性がないとされている猫に魔法が使えるはずはないと考えられているにもかかわらずだ。


 しかも、ヘータの魔法の能力はベルデグリの称号を持つマナと匹敵する程であり、時にはマナも知らない魔法を使うことがある。一体その知識をどこで得たのかとマナが問い詰めたことがあるが、気が付いたときには知っていたと言うだけで、ヘータにもどういうことか分かってはいないようだ。


 ただ、魔法が使えないと信じられている子猫が魔法が使えるとなると、大きな騒ぎになってヘータの身の安全が脅かされると考えたマナは、ヘータの能力を魔法ではない固有の身体強化能力だと偽って学園生活を過ごしていた。


 しかし、だからと言ってマナはヘータの能力の謎に目を瞑って過ごすつもりは全くなかったのだ。


「ヘータが前に描いて見せた『盟友の魔法陣』について聞いてみるのよ。考古学者なら何か分かるかもしれないわ」

「なるほどにゃ。魔法陣は古代語で書いてあるからにゃ」


 魔法陣とは魔法を発現する方式の1つだ。紙や地面などの平らなところに図形と古代文字を書き、そこに魔素を流し込むことで魔法を発現することができる。ただし、古代文字は現代ではすでに失われていて解読は困難を極めているため、現代使われている魔法陣の大半は古文書などで現代に伝わったものだ。


 「盟友の魔法陣」とは、マナとヘータが契約をした時にヘータが書いた魔法陣で、現代、使い魔の契約で使われる魔法陣とよく似ているが、違う内容で違う効果を持っているものだった。


 これはマナの知る限り新種の魔法陣で、それが事実ならこの100年程の間で初めての発見ということになる。しかも、類似の魔法陣が一切伝わっていない使い魔の魔法陣の亜種であるので、その価値は計り知れないほど高い。


 当然、これもヘータの身の安全を考えてこれまでは一切口外してこなかった。


「でも、そのケディというやつは信頼できるのかにゃ?」

「一応、身体検査は済ませてあるわ。カルネにお願いしてね」

「そのカルネが一番危険なのにゃが」


 カルネというのはマナのクラスメイトで極めて優れた諜報能力を持った使い魔を使役している学生だ。マナの行動を唯一追跡できる能力を持っているので、新聞部でマナの専属記者となっている。前回の事件がきっかけで、マナとの個人的な交流も持たれるようになってきていた。


 しかし、カルネのが諜報に使う使い魔は極めて隠密性が高く、マナやヘータでも気が付かない事があるくらいなので、うっかり情報を教え過ぎないようにしないとヘータの秘密がばれる危険があった。


「大丈夫よ。魔法陣は一部しか見せないから。それに、ヘータが書いたとは言わないわ」

「にゃらどうするのにゃ?」

「カインリルからこっそり預かったということにするわ」

「にゃるほど。それは名案だにゃ」


 カインリルとはクプーティマ王国の隣国であるハンセタール王国の侯爵家の跡継ぎ息子だ。先日、短期留学でトルニリキア学園を訪れて、マナにプロポーズをする権利を掛けて試合をして、マナに叩きのめされたばかりだった。


 ちなみに、プロポーズの権利を掛けて試合をするということ自体がすでにプロポーズのようなものじゃないかという当然の疑問は、カインリルという高校生の生来の生真面目さと自意識過剰さを目の当たりにすれば氷解するだろう。


 新種の魔法陣の出所について、カインリルの家柄を考えればそのようなものを持っていても不思議はないし、マナに対する執心度合いを考えれば、マナがそれだけの信頼を勝ち得ていると言っても疑問を持つものはいないに違いない。


 実際、カインリルは自分自身の魔素を含んだ身分証明として有効な魔力結晶をマナに託していったくらいなのだから。


「ところで、お前はさっきから行ったり来たり、何をしているんにゃ?」

「うん。確かこの辺だったはずなんだけど」

「迷ったにゃ?」


 シャーミルに書いてもらった地図を見てここまで来たが、いっこうに目的地の建物が見つからない。というか、建物はほぼ見つかっているのだけれども、入り口が見つからないのだ。


「なぞときかにゃ」

「シャーミル先生が変わり者だと言っていたけれど、確かに変わり者かもしれないわね。はぁ、面倒だわ」


 ヘータは定位置のマナの胸元から飛び降りて、自分の足で周囲を確認してみることにした。マナも目を光らせて入り口のない建物を見上げている。


「まずは上から見てみようかしら」


 マナは素早く片手印を結んで小さく「<発現(レムス)>」と唱えた。すると、マナの身体がふっと地上から消えると同時に、建物の上空でゆっくりと旋回しながら侵入口を探すマナの姿が現れた。もちろん瞬間移動ではなく、単に離陸時の速度が速すぎるだけの飛行魔法だ。


 現代の魔法では、魔法陣は限られた用途にしか使われず、もっぱら結印によって発現される。もっとも一般的なのは両手印で、両手を組み合わせて結印を作り「<発現(レムス)>」というキーワードを唱えることで魔法を発現するのだ。


 これに対し、マナはより高度な片手印を常用していた。これは両手印の両手が塞がってしまうというデメリットを克服する技術だが、代わりに結印が複雑で完成に時間が掛かるので十分習熟しなければ実戦での使用には耐えないのだ。


 もちろん、マナの習熟度は実戦に耐えるレベルを余裕で超えているので問題はない。


「うーん。入り口らしいところはないわね」

「マナ、こっちに来るにゃ」


 マナとは逆に地面の方から調べていたヘータが何かを見つけたらしく、上空にいるマナに呼びかけた。すぐに下りて行ってみると、そこは建物からは離れた何もなかったはずのところだった。


「や、これは気が付かなかったわ」

「これを考えたやつは相当性格が悪いにゃ」


 ヘータに呼ばれて初めて気が付いたのだけれども、そこは実際には何もない場所ではなかった。上空から見ると、ちゃんと地面に地下通路への入り口を閉じるふたのようなものがあったのだ。


 しかし、地上から遠目に見れば、地面に置かれた高さのないただの蓋なのでただでさえ気づきにくいうえに、その蓋にはご丁寧に人避けの魔法陣まで描かれていて、注意が向きにくいように細工されていたのだ。


 その上、近くにはあからさまに目立つ建物が建っているのだから、わざわざ何もないところに意識を向けて人避けの魔法が掛かっているかもしれないなどと考えたりするような人間はまずいない。


「よく見つけたわね」

「まあ、猫は鼻が利くからにゃ」


 マナはしゃがんで蓋を開けようとしたが、どうもそんな簡単には開かなさそうだ。人避けの魔法陣だけではなく、別の魔法も掛けられて施錠されているようだ。


「呼び鈴とかはないのかな?」


 強引に解錠して中に入ることもできなくはないはずだけれども、別に何かを盗みに来たわけではないのでそんなことをする理由はないどころか、これからお願いをする相手にわざわざ喧嘩を売るようなことになってしまう。


 それよりも、玄関がここならばどこかに呼び鈴があってもおかしくないはずだとマナは思ったのだった。

約3年ぶりになりますが、本作の続編を書いていこうと思います。


完全な新作ではなく、リメイク前の「俺は猫×あたしは魔女」の「サバイバル実習」をベースにした話になる予定ですが、5年も前に書いた話のプロットをさらにかなりの部分で書き換えたので、ほとんど新作と言ってもいいかもしれません。


初めのうちは私自身と読者の皆さんのリハビリを兼ねて登場人物や世界観の説明を多めに入れていこうと思っています。記憶力の良い方には冗長かもしれませんが、ご理解ください。


後、キャラが違うとか前に書いた説明と矛盾しているというところがあれば、指摘してください。何しろ3年ぶりなので忘れていることも多いですので。ただし、指定されても直さない(直せない)可能性もありますが、その際はご容赦ください。


更新間隔は大体2週に1度を考えています。が、状況によって1週間で更新したり、1ヶ月開くこともあると思います。イレギュラーな更新はできるだけ事前に予告するようにします。


最後に、現在、本作のイラストを描いています。Twitter でイラスト制作の進捗を適宜投稿しているので、興味があればご覧ください。


では、今後とも末永くお付き合いできることを祈っております。それから、これまでの内容で気に入って頂けた方は、ぜひお気に入りと評価ポイントを入れてください。よろしくお願いいたします。

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