第8章「陰謀」 - 14
10分ほど後、マナは高等部の校舎を訪れていた。もともと有名人だったマナだが先日の交流試合とその後の事件解決劇でその顔を知らないものはいないというまでになっていて、高等部の校舎ではちょっとした騒ぎになってしまった。
「カインリルはいますか」
カインリルのクラスの教室まで来て近くにいた女子学生に聞くと、すぐさま中からカインリルが押し出されてきた。
「……、マナさん」
「えっと、ちょっと場所を変える方がいいわね」
マナは興味津々と言った様子で2人を見る周囲の目に軽い殺気を飛ばしながらそう言った。
「ここは?」
「礼拝堂よ。ここなら誰も来ないわ」
2人は礼拝堂に入って向き合った。少しの間その場を沈黙が支配した。
「……えっと、もう口を聞いてくれないと思ってたよ」
「当たり前よ。勝負に負けたんだから当然だわ」
「だったら、どうして?」
「勘違いしてるようだから、はっきりさせておこうと思ってね。あたしが嫌いなのは弱いやつなの。強くなって挑んでくるというなら話は別だわ」
「……それは、つまり……」
「だから、勘違いしないで。あたしは弱いやつは嫌いなのよ」
それだけ言うと、マナはカインリルを残して礼拝堂を後にしようとした。
「ちょ、ちょっと待って」
「何?」
「ありがとう」
「何、気持ち悪い」
「あなたは僕の命の恩人だ。本当ならアズレント家から正式に何か謝意を示さないといけないところだと思うんだけど」
「やめて、面倒くさい」
「そう言うと思ったんだよね」
そう言って、カインリルは首の後ろで何かを外して襟元から取り出し、マナに手渡した。
「だから、今は何もしないけど、もし将来何か助けが必要になれば言ってくれ。その時はアズレント家の力を総動員してでも力になるよ。これはその証だ」
「ちょ、こんなもの受け取れない」
「いや、受け取ってくれたまえ。それとも、後日アズレント家から正式な招待状を送ってもいいんだよ」
「……それは脅迫って言うんだよ」
とはいえ、形だけでも何か謝意を受けておかないと本当にカインリルの父親あたりからハンセタール王国への招待状が届きそうなことは事実なので、しぶしぶマナはカインリルからの好意を受けることにした。
マナが手渡されたものは魔力結晶のペンダントだった。魔力結晶というのは非常に希少価値の高い宝石で、かつ持ち主の魔力を中に封じて身分証明として使うことができるという特徴を持つ。
つまり、カインリルの魔力結晶を渡されたということは、理屈ではマナはカインリルになりすまして好きなことができてしまうということになるのだ。もっとも、実際にそんなことをしたら公爵家に確認が行って大変なことになるだろうけど。
「じゃ、あたしはもう行くから。せいぜいこれからも精進することね」
「ああ。僕は絶対強くなるよ」
「ふん」
それだけ言うと、マナは礼拝堂のドアを開けて一人でその場を後にした。
「マナ」
「何?」
「お前、顔が赤いにゃ」
「うるさい。猫は黙ってなさい」
礼拝堂から出たところでヘータに声を掛けられたマナは内心を見透かされたような気がして苦々しい顔を作った。
「まあ、いいけどにゃ。そんにゃことより、お前に一つ聞きたいことがあったんにゃ」
「何?」
「結局、お前は攻撃魔法を使えるようににゃったのか?」
カインリルとの戦いでは、結局マナはカインリルに直接魔法攻撃をしないで物理で殴って終わらせた。ただ、その直前に見せた四連撃の気迫にはただのフェイクとは思えない凄みがあったとヘータは感じていた。
「それは秘密よ」
そう言って、マナは教室にまだ残っているはずのミレイの下へと足を速めた。
【終】
ということで、本作無事完結いたしました。当初説明した通り、10万字程度で1つのエピソードが完結するというスタイルですので、この小説は完結済みとさせていただきます。
旧作との比較をすると、一番大きな変更はマナの心の変化をテーマに持ってきたところでした。当初、トラウマを抱えて排他的な人間関係しか築けなかったところから、トラウマに打ち勝って他人との人間関係を結びなおすというストーリーは旧作にはなかった視点でした。
続編ですが、2018年7月現在、準備中です。近いうちに投稿再開する予定でいます。
よろしくお願いします。
(↓発表時のあとがき↓)
さて、続編なのですが、現時点ではすぐに書くという予定はありません。もっと人気が出るようならすぐにでもと思っていたのですが、投稿開始1か月程度でポイントが頭打ちになり、後半には減少に転じるという状況でしたので、読者の求める内容にはなっていなかったのではないかと思っています。
個人的には「※急募※ 職種:国王 年収:1千万円 勤務地:異世界」よりもよく書けていて面白いと思うのですが、世間の評価というのは難しいものです。
評価が上がらなかった理由に、説明の難しい概念が多く出てきたことと、我慢する展開が多かったことがあると考えているので、次に書く作品はその点を改良したものにしようと思っています。
何はともあれ、完結まで長い間お付き合い下さいましてありがとうございました。次回作もご覧いただければ幸いです。




