第8章「陰謀」 - 11
地上から上空の勝負を観察していた審判が、試合終了の宣言とともに落ちてくるマナを魔法で受け止めるべく、ぎりぎりのタイミングを見計らおうとしたところで、事態はさらに予想外の展開を見せた。
「<発現>」
誰もが固唾を飲んで空を見上げる中、澄んだ声でマナの詠唱が響き渡った。
何も手を加えない極めてシンプルな結印。初等部で習う最初の結印である風の念動力の結印。簡単で最速の発現が可能だが、ただそれだけでしかない魔法。
攻撃魔法でも防御魔法でもなく、人を害するような威力など全くないその魔法を今このタイミングで発現したその意図に、カインリルも審判も観客も当惑した。
「ひひーーんっ」
「何っ!」
突然、カインリルの乗るペガサスが大きく身をひねった。不意の動きにバランスを崩して愛馬にしがみつくカインリル。
マナの念動力の向かった先はカインリルに向かって突撃を仕掛け、躱されて慣性で後ろに飛び去って行ったヘータだった。
念動力の支えを得たヘータは進行方向を反転しペガサスの方へと飛びついてそのお腹を下から力いっぱい蹴り上げたのだ。
「し、しまっ」
完全に無防備な態勢となってしまったカインリルは今一番目を離してはいけない相手の方を見た。そこには頭から自由落下しながらにやりと笑うマナの姿があり……
「<発火>、<発火>、<発火>、<発火>ッ!!」
目が合った瞬間、マナの四連撃が放たれた。
それは前回の惨劇を思い起こさせる一瞬だった。しかも今度は完全にカインリルの不意を突いた一瞬。気絶して落下すれば重傷は免れない上空。前回の惨劇のリプレイを想像した観客が悲鳴を上げようとした瞬間。
マナはカインリルの目の前にいた。
「物理でぶん殴るって言ったでしょ」
魔法攻撃を予想していたカインリルの思考の完全に裏をかいた一撃。マナの右ストレートがカインリルの端正な顔に突き刺さった。
マナは四連撃の全てを念動力に使い、重ね掛けした魔法の力で自分自身を急加速させてカインリルの目の前に急接近したのだ。
日々の鍛錬に裏打ちされた渾身の一撃は一発でカインリルの意識を刈り取り、ペガサスから落馬して落下し始めた。
その直後に審判によって試合終了のコールが入り、地上では落下するカインリルを受け止めるための準備が慌ただしく進められていた。
「<発現>」
そんなカインリルは放っておいて、マナは飛行魔法を発現して地面に向けて急降下した。地上に降りると同時にヘータがマナの胸元にするりと潜り込んだ。
「ノルフレド先生、その手はどういうことか説明していただけますか?」




