第8章「陰謀」 - 10
このまま迎え撃ってマナの攻撃をマジックアーマーで防御していいのではと一瞬カインリルは考えたが、何か嫌な予感がして空中戦のセオリー通りマナの背後を取る方針を変えないことにした。
「<発現>、……、<発現>」
ただし、ただペガサスに任せて逃げるのではなく、逃げながらカインリルがマナに魔法攻撃を打ち始めた。しかし、マナはそんな妨害を意にも介さず旋回しながら避けてカインリルをまっすぐに追ってきた。
「<発現>、……、<発現>」
カインリルはリズムよく攻撃魔法をマナに放つが、連射速度はマナには及ばずマナの接近を止めることはできない。
「ピーちゃん」
「ひひん」
「<発現>」
時折マナがカインリルに近づくたびにカインリルは愛馬に声をかけて急旋回させ、マナの突撃を避けた。そして、その背後に攻撃魔法を放つが、どうやってもその攻撃がマナに届くことはなく、マナの追撃を振り切ることができない。
「く、こうなったら、これでどうだ!? <発現>!!」
リズムよく魔法を放っていたカインリルがそのリズムを崩して大きな溜めを作り、マナを引きつけてから大技を放った。
一般に威力のある魔法を使うには結印も複雑になるし、魔素を圧縮する時間もかかる。さらに、魔法をコントロールするために精神を集中させなければならない。そういったことが全て関わって魔法発現までのリードタイムが長くなるのだ。
しかし、生み出された魔法はそれだけの価値のあるものだった。マナの眼前には炎熱を伴う大きな竜巻が出現し、視界と進路を完全に塞いでいた。これでは上下左右にどの方向にも軽く避けることはできず、一度後退せざるをえないはずだ。
その瞬間こそ、カインリルの最大の勝機となる。カインリルの姿を見失って後退するために停止する一瞬は、防御魔法の使えないマナには致命的な隙だ。そこを狙って死角から攻撃魔法を放てばそれで試合終了だ。
しかし、まさにカインリルがマナにとどめの一撃を放とうとしたその瞬間、カインリルは竜巻の手前にあってはならないものがあることに気が付いた。
「ピーちゃんっっ!」
「ひひんっ」
そこにいたのは猛スピードでカインリルに向かってくる子猫の姿だった。
カインリルが大技を発動するタイミングを見計らってマナがカインリルに向かって投げつけていたのだ。さらにヘータ自身もマナの手を蹴ってさらに加速して、魔法発現前に一気に竜巻の向こう側へと飛び出していた。
予想外の攻撃に思わず叫んだカインリルだったが、主の声に応えて限界を超えた反応速度でペガサスが下へと逃げてぎりぎりでヘータの接近を躱した。
「<発現>」
その間、カインリルの予想には反して、マナは竜巻を後退して避けるのではなく呪文を詠唱して水の散弾を生み出して掻き消した。
「バカな。自殺行為だ」
思わずカインリルはそう漏らした。飛行魔法で飛行中に他の魔法を使うと、使用中の飛行魔法は解除される。それは空中での行動が全く不能になり慣性と重力に従って自由落下するだけということだ。
再度飛行魔法を発現すれば飛行を再開することは可能だが、発現には不可避なタイムラグが発生する。その間に攻撃魔法を放たれれば回避できない以上は必ず防御魔法を使わなければならない。
それを繰り返せばいつまでも飛行を再開することはできず、最後には地面に激突するしかない。
まさに絶体絶命であった。




