第8章「陰謀」 - 04
「……僕も、そう思う」
マナの言葉に、カインリルは逡巡を振り払うようにうなずいた。
これまでの一連の事件は全てハンセタール王国の留学生グループの内側で起きていた。カインリルの鎧に仕掛けをしたのも、カインリルが毒殺されそうになったのも。見た目の派手な交流試合での事故が惑わせるが、冷静に考えれば犯人はハンセタールの人間である可能性が最も高い。
ただ、その事実はカインリルには辛い現実だった。そして、それと同時にカインリルの身の安全を守ることが容易でないことも示唆していた。
「カインリル。犯人に心当たりは?」
「いや。そもそも、僕が留学するに当たって同行者から少しでも危険なメンバーは除外されたと聞いていたから」
マナはその話を聞いて内心呆れた。その調子だと、きっと留学を希望していたのに家柄がどうとかでメンバーから外された学生もいたのではないか。それで今回の事件が防げなかったというのだから、バカバカしいとしか言いようがない。
「毒ガスの時の話は聞いても仕方ないか」
「すまない。その時のことは全く記憶がないんだ」
マナはミレイにも顔を向けるが、ミレイもやはり首を振るだけだった。
「ノルフレドというやつは何か知ってるんじゃにゃーか?」
テーブルの上に陣取っていたヘータがそんな声を上げた。もちろん、マナ以外には「にゃー」と言っているようにしか聞こえないので、それに反応したのはマナだけだ。
「どうしたの、マナ?」
「え、いや、ちょっと待って」
マナは平静を保ちつつ口を開いた。いかにも今自分が思いついたという様子で。
「ノルフレド先生が犯人だったとして、何か心当たりはあるかしら?」
「え?」
あたかもカインリルに対して話しかけたように装っているが、実のところマナの問いはヘータに向かっている。しかし、それが分からないカインリルは唐突な問いに言葉を失った。
「カインリルの魔法が失敗した瞬間ににゃ、あいつ1人だけ嬉しそうな顔をしてたんにゃよ。他は全員悲鳴を上げそうにゃ顔をしてたのににゃ。そのくせ、事故の後は誰よりも怒ってたんにゃよ。変にゃよにゃ」
ヘータの話をポーカーフェイスで聞いていたマナは、考え込んでしまったカインリルに変わってミレイに問いかけた。
「ミレイ、交流試合のときのノルフレド先生の様子で気になったことはあるかしら?」
「そんな特に変なことはなかったと思うけど。カインリルさんのことをちょー心配してる感じだったし……。
あ、そう言えば、カインリルさんの治療でうちの学園の医療班が先にカインリルさんの側に駆け寄ったんだけど、治療しようとしたら止めてたよ。自分たちで治療はやるって言って」
「それはなんか変だね」
「うん。その時はボクはマナのことしか考えてなかったけど、今から思ったらちょっと変だったかも」
好意的に解釈すれば、カインリルの事故がトルニリキア学園側の誰かの陰謀だったときに、学園側の医療班が証拠隠滅をすることを恐れたとか言えるのだろうけど、ちょっと苦しい気がする。
誰が見ても危険な、場合によっては命に関わる事故が目の前で起きたのに、その応急処置に駆け付けた医療班の手をわざわざ止めようとするだろうか。一刻も早く治療を進めてほしいと思うのではないだろうか。
むしろ、ノルフレドの方が万一決定的な証拠を残してしまった時、その証拠を隠滅する機会を失うことを恐れたと考える方が自然なのではないか?




