第8章「陰謀」 - 02
ミレイが廊下に出るとマナは玄関のところで立ち止まっていた。声を掛けようとしたところで、ミレイは玄関の外にさらに別の見知った人影があることに気づいた。
「カインリルさん!? どうし……」
「ヘータに何をしたの!!」
マナの言葉でミレイはカインリルが腕にぐったりしたヘータを抱いていることに気づいた。
「分からない。目覚めたときには側にこの子が倒れていたんだ」
マナはカインリルからヘータを受け取り、あちこち触って様子を確認していたが、どんどん顔が険しくなって唇を噛み始めた。
「マダラアサガオの種から抽出した毒ガスだわ。……カインリル、あなた、目が覚めたらヘータが側で倒れていたって言ったわね」
「そうだ。気がついたら厩舎の倉庫で寝ていて、隣にはこの子猫がいたんだ」
「嘘じゃないでしょうね」
「アズレントの名に懸けて」
「そう。ならいいわ」
もしヘータが毒ガスを吸ったのなら、側にいたカインリルも当然毒ガスを吸ったはずだ。カインリルが嘘をついているのでなければ、毒ガスはヘータではなくカインリルを狙ったものだ。
おそらく、ヘータはカインリルが何者かに狙われていることに気づいて、カインリルの様子を確認しに行って、そこで毒ガスをかがされたカインリルを助け、自分が逆に毒ガスに犯されたのだ。
「とにかく、ヘータを治療しないと」
マナはヘータを屋敷の地下に作った実験室へと連れていって台の上に寝かせた。そして、ヘータの周りを取り囲むように慎重に魔法陣を描いていく。
ミレイとカインリルはその真剣な様子に言葉を失って見入っていた。
「ふぅ」
魔法陣を描き上げたマナは一息ついた。しかし、最も難しいのはこの先だ。
ヘータの体は水属性の魔法で常に強化された状態にある。なので、そのまま治癒魔法を使っても身体強化魔法と干渉して魔法が発現しないのだ。治癒魔法を成功させるためには慎重に魔法をコントロールして身体強化魔法と同調させながら発現する必要がある。
だが、魔法の同調はマナにとって忘れたくても忘れられない心を引き裂かれるような記憶を伴う技術だ。
このまま治療しなくてもヘータが必ず死ぬわけではない。恐らく50%以上の確率で無事に回復するだろう。30%程度には軽い後遺症を残すもののやはり回復するに違いない。でも10数%の確率で重い後遺症が残るか場合によっては死ぬ。
10数%は楽観視するには高すぎる確率だ。冷静に考えればマナの技術がその確率を上回っていればここでマナが治癒魔法を使う意味がある。そして、その自信があるからこそ魔法陣の準備をしたのだ。
――だけど怖い。
マナは自分の手が震えるのを止めることができなかった。
「マナ」
マナが何をしようとしているのか正確には理解していないものの、苦しんでいるということは分かったミレイがマナの震える手に自分の手を重ねた。




