第8章「陰謀」 - 01
マナが目覚めたとき、そこはいつもの見慣れた我が家だった。ただ、何かいつもと違う気がした。
――あれ? なんか変?
腕の中にいつもあるはずの温もりがないことに漠然と不安を感じて体を起こしたその瞬間、マナの脳内に昨日の出来事がフラッシュバックした。
マナの放った攻撃魔法を防御できずに直撃にさらされるカインリルの姿……
――あ、あ、あたし、なんてことを……
「マナ」
不意に手にいつもと違う温もりを感じて声のした方を見ると、ミレイがマナの手を握って力強く見つめていた。
「ミレイ、どうして?」
「カインリルさんは無事だよ」
答えにならない答えだったが、マナはその一言でミレイの言いたいことを悟って、マナの手を握るミレイの手に自分の反対の手を重ねた。
「……ありがとう」
「大丈夫だよ。朝ごはん、食べるよね」
「……うん」
――そう言えば、前にもこんなことがあったな。
まだ不安は残るものの、ミレイのおかげで少し気分の落ち着いたマナはともかく起き上がって着替え始めた。服がパジャマなのは、眠っている間にミレイが変えておいてくれたのだろう。
いつもより少し長い時間をかけて朝の支度を終え、食堂に来るとミレイがコーンポタージュを作っているところだった。
――いい匂い。いつもならこのドアを開けたとき野蛮な臭いが……
とそう思った時、マナはようやく朝から感じる違和感の正体に気づいたのだった。
「ヘータがいない!」
ヘータがマナより先に目覚めることはいつものことだし、まだうとうとしている間に1匹でベッドを抜け出してさっさと朝食を作って食べていることも珍しくないことだ。だけど、あの臭いをかがない日なんて今までなかった。
「ん? あ、そうだね。昨日の夜から見てないけど、猫って夜行性だからどこかで遊んでるのかもね」
「何だろう。嫌な予感がする……」
「大丈夫だよ。猫が外を散歩するなんてちょー当たり前のことだよ。もうすぐ戻ってくるって」
「……うん」
ミレイはそういうものの、マナの心は全く落ち着かなかった。しかし、ミレイの言葉を否定できるだけの根拠もないので、おとなしく席についてミレイが作ってくれたコーンポタージュを口に運んだ。
「マナ、こぼれてる」
「あ、ごめん」
いつの間にかマナの手が止まってコーンポタージュがテーブルにこぼれていたようだ。もったいないと思ってちゃんと食べようとするが、手が上手く動かせない。
「マナ、どうしたの?」
「ど、どうもしてないわ。何であんな奴のために!」
そう言うと、マナはスプーンを置いて皿を持ち上げ直接ごくごくとコーンポタージュを飲み干してしまった。
「あのさ、ミレイ。あたし、ちょっと散歩してくるから」
「あ、ボクも行くよ」
慌ててミレイも素早くスプーンを動かしてコーンポタージュを平らげると、テーブルの上のパンを2つ取ってマナの後を追いかけた。




