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第7章「長い夜」 - 06

 犯人が入ってくるならドアからだと考え、ドアから見て死角になる陰に身を潜めた。すぐ近くには窓があるので何かあったらすぐに外へ逃げられる。


 その間にヘータはあの事故の時に何が起きていたのかについて考えを進めた。


 カインリルが防御魔法の詠唱を中断したのは誰かからの干渉によるものだろう。しかも、その時同時にカインリルに大きな怪我をさせるほどの攻撃も加えている。


 あの時カインリルに向かって放たれた魔法はマナの魔法だけだった。遠距離からの物理攻撃という可能性もあるが、それならば矢なり砲弾なりが見えたはずだ。と言うことは、あらかじめ魔法陣が鎧に仕込まれていた可能性が高い。


 だとすれば、鎧を調べればその痕跡が見つかるはずだが、そもそも鎧に仕掛けを仕込める立場にいるなら、仕掛けの回収も容易なのだろう。ならば、今更調べても痕跡は消されているに違いない。


 しかし、そうだと考えれば犯人を絞り込むことは比較的容易だ。カインリルと一緒にこの屋敷で寝起きしている留学生一行の誰かが最も怪しいことになる。


 ――ん?


 思索にふけっていたヘータだったが、妙な違和感を覚えて顔を上げた。なんだかさっきから体を動かすのが億劫に感じる気が……


 ――毒か!?


 はっと気づいてヘータは跳ね起きた。全身に違和感を感じるが、今はそれどころではない。この部屋に毒が充満しているということは誰を狙っているのかは明らかだ。


 ヘータはまず近くの窓を開け放って換気をした。毒ガスが消えるには時間がかかるが、これ以上濃度が上がることはこれでないはずだ。


 「<発現(レムス)>」


 そして、魔法でカインリルを宙に浮かせ、外の様子を確認して窓から外へと出た。毒からなるべく遠ざかりたいというのもあるが、直接的な手を下してきた犯人からカインリルを守る必要があると考えたからだ。


 といっても、カインリルをかくまう場所に当てはない。自分の屋敷はここからは少し遠すぎた。


 ――どこか、夜に人の近寄らにゃさそうにゃ場所で朝まで過ごせれば……


 ひとまず屋根の上にカインリルを引き上げて庭を見ながら考える。さっきの毒が体に回ってめまいがするが、ここで倒れるわけにはいかない。


 ――あれは厩舎かにゃ。


 庭の隅に建てられた建物を見て、ヘータはすぐにカインリルを連れて屋根を降りた。厩舎にはカインリルの愛馬ペガサスがいるはずだ。そこなら犯人がカインリルに手を出そうとしてもペガサスが守ってくれるかもしれない。


 ふらつきながら建物に入ると、そこはやはり厩舎でペガサスが1頭膝を折って眠っていたが、ヘータとカインリルが入ってきたことで目を覚まして立ち上がった。


 ただならぬ主人の様子に駆け寄ろうとしたペガサスだが、側にヘータがいることに気がついて足を止めた。どうやらヘータのことは覚えているようだ。


 「お前の主人が大変なんにゃ。かくまってくれにゃ」


 ヘータがそう言うと、ペガサスは前足で地面を少し掻いて厩舎の奥の方を見た。そちらには扉があって、どうも倉庫として使っている場所のようだった。


 「サンキューにゃ」


 ヘータは一言礼を言って、カインリルをその倉庫に運び込んだ。


 「ふぅ。ちょっと、無理をしたみたいにゃ」


 カインリルを床に下ろしたヘータは、しびれる手足と尻尾を使ってカインリルの周りに魔法陣を描いていた。床が土なので跡を付けるだけだが、石畳になっていたら面倒なことになるところだった。


 ヘータが描いているのは代謝を活性化して毒素の分解を促進する初級の治癒魔法だ。医療系の魔法は構成が複雑なので結印魔法にすることができず、初級でも魔法陣を描く必要がある。


 「<発現(レムス)>」


 描き上げてすぐに魔法を発現させると、魔法陣の柔らかな光がカインリルを包んで体に染み込んでいった。昼だと分かりづらいが夜の小屋の中だと周囲に光がないのでよく見える。


 魔法の発現が成功したことを確認すると、ヘータは安心したように意識を手放した。



長い夜【終】

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