第7章「長い夜」 - 05
料理にはあまり信頼のおけないミレイだったが、マナの側についていてくれるというのなら看病は任せておけばいい。そう思ったヘータは夜の街に繰り出した。
夜の街と言ってもネコキャバとかそういうのがあるわけではない。生後半年も経っていないヘータにそういう欲求はない。
ヘータが向かったのはカインリルたちが宿泊する屋敷だ。ヘータは昼間不自然な形で防御魔法を中断したカインリルの様子に疑問を持っていた。
――あれは何が起きていたのか、解明する必要があるにゃ。
トルンの高級住宅街全域を縄張りにしているヘータにとって、カインリルの屋敷は自分の庭みたいなものだ。道々行き交う猫たちはヘータを見ると脇によってお腹を見せてくるが、ヘータはいちいちそれに反応したりはしない。
ヘータの思考はカインリルが魔法を中断した時のことに集中していた。
あの時、カインリルは防御魔法を発現させようとしていた。その様子に不審なところはなく、何事もなく魔法は発現するはずだった。にもかかわらずカインリルは魔法を途中で中断した。
しかも、実はマナはあの一瞬で異常を察知して攻撃魔法をキャンセルしていたように見えた。それなら1発目は直撃したかもしれないが、2発目以降は直撃せずに消滅していたはずだ。にもかかわらず、カインリルは魔法で大きな怪我を負っていた。
それが何を意味しているのか。
カインリルの宿泊する屋敷に着いた。マナとヘータの屋敷からそれほど離れてもいないところなので、ヘータの足ならあっという間に着いてしまう。
この屋敷のどこかにカインリルがいる。怪我をしているのでどこかの部屋で安静にしているはずだ。魔法で傷口は塞がれているだろうが、修復した組織が体になじんだり失った血が回復したりするまでは無理はできない。
黒猫の体は闇にまぎれるには有利だ。犬や猫のように鼻の効く生き物なら別だが、人間はそこまで臭いに敏感ではない。また、ヘータは魔法生物ではなく魔力をまとっていないので、そちらのセンサーにも検知されることはない。
それに、たとえ見つかってもヘータは一見は何の変哲もないただの子猫なのだ。余程注意深くない限りヘータを見て警戒心を抱かれることはないと言っていい。
ということで、ヘータは殊更何をするということもなく、ただ屋敷に近づいて順番に窓を覗き込んでカインリルがいるかを確認していった。
――いた。
カインリルは2階の一室でベッドの上に寝かされていた。部屋にはカインリルが1人だけで付き添いの人はいないようだ。
「<発現>」
窓には鍵が掛かっていたが、ヘータは魔法で難なく解錠して部屋の中へと侵入した。
――例の鎧はこの部屋じゃにゃいのか。
部屋の中にはベッドの他に何も置いていなかった。恐らくカインリルが私室として使っている部屋ではなく、看病のために用意した別の部屋なのだろう。
カインリルに近づいて様子を見てみると、怪我は治癒が成功して後は安静にしていれば大丈夫のようだ。数日は戦闘は控えた方がいいだろうが、学校へ行くくらいなら問題ないだろう。
派手な事故の割に大事に至らなかったのは、マナが魔法を直前でキャンセルしたからだろう。あのタイミングでキャンセルできるのはさすがマナということだ。
ただ、それはこの事故を画策した犯人にとっては想定外なのではないだろうか。あれだけの大技のタイミングを正確に狙ったのに、全治数日程度の怪我では釣り合いが取れない。きっともっと決定的な結果を望んでいたに違いない。
とすれば、今夜、カインリルが目を覚ます前に、犯人が決定的な結果を求めて何らかの形で接触してくる可能性がある。接触してどうなるかは分からないが、それを待てば犯人の狙いが分かるに違いない。
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