第7章「長い夜」 - 03
その日、マナとヘータはある特殊な魔法の実験のために2人の魔法を同調させようとしていた。
「同調」とは魔法属性の干渉に関係していて、同属性の魔法を制御下に置いたまま共鳴させることを言う。通常、魔法が共鳴すると簡単に制御を離れてしまって暴発してエネルギーを解放してしまうが、共鳴を制御して同調させるとより強力で複雑な魔法を行使できるようになる。
ただし、この技術は同調が進むほど制御が難しくなり、さらに暴発によって解放されるエネルギーも大きくなるという危険と隣り合わせの技術なのだ。
2人はこれまでも魔法の同調を成功させたことは何度かあったが、その時はいつもよりさらに深く同調させようとしていた。ところが同調を進めていくにつれ急に魔法が不安定になって何とか制御しようという努力も空しく暴発してしまったのだ。
そして、マナはその失敗が自分のせいだと責め続けているのだった。
約半年後、春学期の終わりごろにようやく復帰したマナだったが、以前見られたような明るさはなくなってしまい、親しくしていた友達ともミレイを除いて距離を置いてしまった。
そして暇さえあれば誰とも交わらずにただ一人で黙々と鍛錬をし続け、中等部に上がって魔法組手が授業で行われるようになってからはただの一度も土を付けられることはなかった。ただ、攻撃魔法を人に向けることだけは頑なに拒否していた。
交流試合でカインリルがマナの攻撃魔法を受けて倒れたとき、ミレイが真っ先に心配したのはカインリルではなくマナのことだった。
思えばマナは始めからおかしかった。
いつもはもっと冷静に余裕を持っていて、むしろちょっとやる気がないくらいなのがマナのスタイルなのだ。バドルスから突っかかられるのもそのやる気のない態度が原因だし、そのことでバドルスから挑発されてもそれには乗らないのがマナなのだ。
なのに、カインリルに対する態度はまるでバドルスが憑りついたかのように挑発的だった。その上、勝負に焦って普段なら絶対に避ける攻撃魔法まで放ってしまうなんて。
ミレイはそのマナの態度がいつものように冷静に計算尽くでやっている演技なのだと信じていたのだが、それは大きな間違いだったのだということにここに至ってようやく気づいた。
だけど、気づいたときには手遅れだった。
審判の声を待たずに闘技場へと駆け上がったミレイは、しゃがみ込んでしまったマナの側へと一直線に近づいた。マナは完全に放心していてミレイが近づいてきていることにも気づいていないようだ。
「マナッ」
ミレイが声を掛けるがやはりマナの反応はない。浅い呼吸を苦しそうに何度も繰り返すだけだ。
「マナ、しっかり、落ち着いて」
背中や手を擦りながら何度も話しかけるが、マナの症状は悪化するばかりだった。
「マナ、ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うと、ミレイはマナの体を地面に横たえ、普段から持ち歩いている魔法陣用のペンと紙を取り出して魔法陣を描き始めた。
魔法陣を描くというのは繊細な作業で、通常は落ち着いた部屋の中などで見本を見ながら描くというのが常識なのだが、ミレイは屋外で手本もなく時間に追われる状況下で正確に魔法陣を描いていった。
どれほど急いで描いたとしても、魔法陣を描き上げるには数分は掛かってしまう。その頃にはマナの状況はさらに悪化して手足を自由に動かすことができなくなっているようだった。
「すぐ楽にしてあげる。<発現>」
ミレイはマナの上に描き上げた魔法陣を載せると、呪文を唱えて魔法を発現させた。魔法陣は発光してすぐ光を失い、マナの発作は止んで代わりに深い眠りへと落ちていった。




