第7章「長い夜」 - 01
ミレイは元々クプーティマ王国の国民ではない。王国の南に位置する小国群の王家の傍系に当たり、幼いころに一家でトルンに移り住んできた移民だ。親が教育熱心で移住直後からミレイは初等部の1年生として学園に通うこととなった。
移民当初、ミレイは新しい環境になかなか馴染めず苦労していた。ミレイの出身国はクプーティマ王国から見れば1地方都市程度の小国で文化的にも経済的にも辺境であり、世界最高水準の学園都市であるトルンとは何もかも違っていたのだ。
例えばそれは言葉の問題だった。クプーティマ王国と小国群は基本的には同じ言語を話すが、方言の違いはある。北部のトルンと南方の小国群では語彙も発音も大きな違いがあって、ミレイは周囲の同級生の話すことが理解できないことがたびたびあった。
必然的に、ミレイは教室の中で孤立して、一人で過ごすことが多くなった。
そんな中、いつもクラスの中心にいたのがマナだった。マナはすでに当時から才能にあふれていて、同級生からは一線を画した存在だった。しかも、今とは違って性格は明るく常にグループのリーダー的存在だった。
ミレイはそんなマナのことを眩しく思いながらも遠巻きに見ているだけだったが、ある時、その視線に気づいたマナが少し強引とも思える勢いでグループに引っ張り込んだ。それ以来、ミレイは常にマナと行動を共にするようになった。
マナは言葉にも文化にも不慣れなミレイを気に掛けていつもさりげなくサポートしていて、ミレイはマナの勝気な性格で周囲と対立することがあると必ずマナのフォローに回っていた。
そうして、次第にミレイは周囲からマナの女房役として見られるようになっていき、お互いに親友と認め合える仲になっていったのだ。
だが、マナにはそんなミレイでも勝てないほどマナの心を掴んでいる人物がいた。それがヘータ=プラー=アルセイで、プラー寮でマナの隣の部屋に住んでいる少年だった。
ヘータはマナ以上に才能に恵まれた文字通りの天才で、ミレイからすればもはや授業を受ける意味があるのか分からないほどの傑物だった。どんな人物かとマナに問えば、
「あれは敵よ。魔王よ。倒すべき相手よ。それだけよ」
と答えるが、単なるライバルという以上の感情を持っていることはすぐにミレイは気づいていた。
2人の性格は対照的で、模範的な優等生だったマナに対して、ヘータは不真面目ですぐに授業や課外活動などをすっぽかして姿を消してしまい、周囲の反感を買っていた。そんな時、マナは決まってヘータを探し出して来たり、ヘータの仕事を肩代わりしたりするのだ。
学年が上がってくると、そんなマナとヘータの関係を揶揄しようとする子供が出てくる。クラスの中心人物であるマナを面と向かってからかうようなものはいなかったが、ヘータをからかう子供は少なからずいた。
だが、ヘータはそんなことがあってもほとんど関心を持たなかったので、特に問題になることはなかった。直接手を出されたらともかく、口で言われた程度のことでいちいち反応するなんて面倒だと思うような細かいことにこだわらない性格だったのだ。
ただ、あるとき目の前でそれを目撃したマナが怒って、からかっていた同級生に向かっていきなり攻撃魔法をぶっ放したせいで、生徒は軽傷で済んだものの教室の窓が全部割れるという事件が起きて以降、マナとヘータの仲についてからかうものは一人もいなくなった。
さらに学年が上がると、2人のレベルは完全に周囲から隔絶してしまっていて、授業でも課外活動でも2人で組んですることが多くなっていた。さらに、放課後には自主研究として2人で実験室にこもって魔法の実験をすることも多くなった。
自主研究で何を研究していたのか、マナと最も親しいミレイでもよく分かっていなかった。大抵は図書館などで見つけた本に書いてある魔法を再現しようという試みのようだったが、その内容は初等部のレベルをはるかに超えていたためだ。
事件が起こったのはそんなときのことだった。




