第6章「交流試合」 - 09
「マナ、あいつ、にゃんか変なのを着こんでるにゃ」
「あれはカーピー=オスタンのマジックアーマーよ。鎧に魔法陣が仕込んであって、結印なしで防御魔法を発現できるやつだわ」
カーピー=オスタンとはクプーティマ王国の一貴族であり、世界的に有名なマジックアーマーのメーカーの経営者兼製作者でもある。そして、その名を冠した高級マジックアーマーのシリーズはその性能とデザインから世界的に愛好者が多いのだ。
実用鎧としての性能もピカイチだが、その目の飛び出るほどの値段から晴れの舞台の衣装として使われることがほとんどで、余程のことでもなければ実戦に使用するようなものではなく、間違ってもこんな練習試合で着るような種類のものではない。
「カインリル! あなた、その鎧って、バカじゃないの?」
「マナさん。僕はこの試合に勝ってあなたに結婚を申し込む。これ以上カーピー=オスタンにふさわしい舞台はないじゃないか」
キラーンという効果音が聞こえそうな勢いで宣言するカインリルに観客席からは黄色い声援が飛ぶが、マナは試合前にして内心頭を抱えていた。カーピー=オスタンの存在は、ないなりに考えてきたマナの策を無意味にしてしまう可能性があるからだ。
カーピー=オスタンのマジックアーマーの最大の特徴は、鎧内部に仕込まれた魔法陣を作動させることで、結印なしに防御魔法を発現することができるという機構だ。セミオート・ディフェンスと名付けられていて、通常セミオートと呼ばれる。
常に同じ属性の防御魔法しか発現できないが、結印魔法を補完するように使うことで防御の手を増やすことができるのがメリットだ。
ただ、マナが気にしているのはこの魔法防御のセミオート機構ではなく、それと並行して付与されることが多い物理攻撃に対する防御のセミオートの方だった。それは、マナが魔法組手で剣を振るう理由にも関係している。
実は物理攻撃を魔法で防御するのはかなり難しいのだ。原因は魔法発現のタイムラグで、剣で切りかかられたときに攻撃に気付いてから結印を開始しても防御魔法が発現する前に剣が届いてしまう。
もちろん、通常は遠距離から攻撃して剣の間合いに入れさせることはないが、それでもそれを突破されることがないわけではない。例えば死角から近づいたり騙したり四方から同時に襲い掛かったりと方法はいくらでも思いつく。
カーピー=オスタンは、そんな万一の備えに物理特化の防御魔法として発現させると自動で相手の剣筋に合わせる魔法陣を独自に開発して、マジックアーマーに組み込むセミオートのオプションの1つに加えたのだ。
マナの作戦は最初に何かしらの方法でペガサスの足を止めてから、接近戦に持ち込んで後は剣術だけでカインリルを仕留めるということだったが、このままでは剣術だけというわけにはいかなそうだ。
「仕方ないわ。とにかく、まずは足を止めるわよ」
「任せとくにゃ」
マナはまだ迷いが残っていたが気持ちを切り替えて目の前の戦いに意識を集中させた。ヘータはやる気満々だ。
「始め」
「<発現>、<発現>、<発現>」
開始の合図とともに、マナはカインリルの上空に連続で魔法を発現させ、いくつもの竜巻で空を覆った。
「っ、これは空を飛ばさないためかい? だけど、ペガサスは空だけじゃなく地面だって走れるんだよ」
「ふんっ」
カインリルの余裕の発言を無視したマナは剣を鞘から抜き放って駆け寄った。
対するカインリルはペガサスの胴に軽く足を当ててマナから距離をしようとしたが、どういうことかペガサスは全く足を動かそうとしなかった。
「ぶふぅっ」
「ピーちゃん?」
不審に思ったカインリルが下を見ると同時に、ペガサスは泡を吹いて横倒しに倒れてしまった。あわや下敷きになりそうだったカインリルだが、とっさに飛び降りて事なきを得た。




