第6章「交流試合」 - 08
その日も、ヘータは一人でお気に入りのアーリン・ホールの屋根の上でお昼ご飯を食べていると、ただならぬ形相で歩いているマナの姿を見つけた。少し離れた後ろからはミレイがおろおろした様子でついてきている。
「どうしたにゃ?」
即座に屋根から飛び降りてマナの隣を歩きながら問いかけるが、マナは返事をしない。仕方ないのでひょいとジャンプしてマナの肩の上に飛び乗りいつもの胸元の定位置へと滑り込んだ。
マナはまっすぐホームルームの教室へと入って行き、いつものようにアリアノ蜂をまとわせながらお弁当を食べているカルネの席の前に立った。
「カルネ!」
「これはマナさま。一体どうしたのですか?」
「これはどういうこと!?」
そう言ってマナは手に握りしめていた校内新聞をカルネの机に広げた。と同時に、カルネはとっさに机の上のお弁当を持ち上げて新聞につぶされないように避けた。
マナが自分からカルネに話しかけるというのはめったにないことだ。あるとするとカルネの書いた記事に相当立腹したときで、例えば「沈黙の女王」という名前を使った最初の頃にはその名前を止めるように何度も説得された。
とはいえ、そこはカルネも歴戦の勇者でマナの説得も適度に受け流して未だに二つ名を使い続けているくらいなのだから、今回もマナの剣幕に対する怯えの色は見られない。むしろ内心では闘志を燃やしていた。
「カインリルの交流試合ではエリアヒールを使わない!なんて妙な煽りを入れないでくれる?」
「え? ああ、それでございますか?」
何が出るかと待ち構えていたカルネだったが、マナの言葉に拍子抜けたような表情になってしまった。
「それはカインリルさまのたっての希望ということでそうなったようです」
「カインリルの希望!?」
「ええ。トルニリキア学園の方式で試合をしたいとカインリルさまがおっしゃったようで」
「あんにゃろ、余計なことを……」
「マナさまはご存知なかったのですか?」
「ご存じないわよ」
苛立たしげな様子のマナだがヘータにはその理由がよく理解できなかった。ヘータとしては気持ちの悪いエリアヒールがなくなった方が戦いやすいと思うのだ。
しかし、マナとしては都合が悪い。魔法で人を攻撃することに強い忌避感を感じるマナは、今回の試合がエリアヒールで守られていることでその忌避感を紛らわせると考えていたからだ。
逆に言えば、エリアヒールがないとマナには攻撃魔法の忌避感を紛らわせるいい手だてがない。だからと言って、あの逃げ足の速いペガサスを相手にいつものように攻撃魔法を一切使わずに戦うのは果たして勝ちきれるかどうか。
あるいは強い忌避感で戦闘不能になる前に、決定打を入れて試合終了に持ち込むか。だが、確実に一撃で決めるにはより強い攻撃魔法が必要で、それにはより大きな反動が予想される。
女王の逆鱗に触れないように遠巻きに眺めるクラスメイトたちをよそに、マナは苦々しい表情で目の前に迫る試合について考え込んでいた。
しかし、結局、これと言った策がないまま、試合当日がやってきてしまった。
マナの装備はいつもの特に何の変哲もない運動着にこれまたいつもの長剣。ヘータは定位置の胸元ではなく肩の上に載せていて、以前着ていた鎧だけを身につけて武器は何も持っていなかった。
対するカインリルはこれまでの練習試合では身につけたことのない暗青灰色の鎧を身につけてペガサスの上に跨っていた。




