第6章「交流試合」 - 07
「俺にゃら空を飛ぶにゃ」
「でもウィルムは陸竜だからペガサスの機動力には勝てないよ」
「誰もオロンに飛んでもらうにゃんて言ってないにゃ」
マナがにやにや指摘すると、ヘータは当たり前のことをわざわざ聞くなと言いたげに答えた。
「俺が飛行魔法でオロンと一緒に飛んでオロンにブレスを打たせれば、即席移動砲台のできあがりにゃ」
「ま、それが妥当な線よね」
マナとヘータは当たり前のように話しているが、飛行魔法というのは単に結印一発でできるというものではなく、発現中に魔法を細かく制御していないとすぐにとんでもないところに飛んで行ったり地面に激突する高等技術だ。
しかも、飛行魔法発現中は他の魔法を行使できない。なので相手が魔法で攻撃しても防御魔法で防ぐことはできず、全て飛行して回避しなければならないのだ。即席移動砲台などど言えるほど気楽なものではない。
と、そんな会話をしている間に試合は急展開を迎えていた。集中力が欠けた一瞬を突かれたバドルスが防御魔法の発現に失敗したことがきっかけでカインリルの猛攻を受けてあっけなく試合終了となってしまった。
「なさけないわねー」
試合が終わった後、控えのベンチに戻って疲れ切った様子で座っていたバドルスを訪ねたマナの第1声はそれだった。
「うるさい。僕は君のように卑怯な戦いはしない。正々堂々と戦ってそれで負けた。それだけだ」
「正々堂々とか卑怯とか言う前にまず勝つことよ。話はそれからだわ」
「君とはとことん話が合わないな」
「それだけ話せるようなら心配いらないわね。まあ、あなたが勝ってくれてたらあたしの方ももうちょっと楽になったかもしれないけど、それは期待のしすぎよねー」
バドルスは最後に連発をもらっていたにもかかわらず、怪我はしていなかった。念のため医療班の診察も受けていたが全く問題なかったようだ。エリアヒールのおかげだ。
わざわざマナがバドルスの下を訪れたのも、憎まれ口を叩きにきたというわけではなく、エリアヒールの効果がどの程度のものか確かめておきたかったというのがあったのだ。
次の試合でカインリルと戦う時、どの程度なら怪我をさせずに済みそうなのか測っておくということだ。
「用がないなら帰ってくれたまえ」
「言われなくても帰るわよ。……あ、そうそう。今日の試合、バドルスにしてはまあよくやった方なんじゃない?」
「何が言いたいのだ?」
「ほめてあげてるのよ」
そう言い残してマナは来た時と同じようにふらっと去っていった。
ヘータはいつも学園の中でマナとずっと一緒にいるわけではない。マナと一緒に授業を聞いていることも多いが、興味がなければふらっと勝手に外に出て行って、また勝手に帰ってくる。それに昼飯は好みの問題で別々で食べることが多い。
オロンに勝ってからしばらくはファンクラブの会員に追いかけまわされていたが、ファンの目から逃れる技術を身につけて、最近では1人の時間を邪魔されることはほとんどない。
学園内を散歩するヘータの目的は縄張りの巡回だ。これは知性とは無関係に猫としての本能がそうさせるのだろう。知っている場所がいつもと同じ様子であることを確認することだけで気分を安心するのだ。
ヘータの縄張りは広い。学園内だけでなく放課後は自宅周辺の巡回もしているので、おおよそ学園の敷地全体とトルン市の高級住宅街の全域は全て縄張りといってよい。
他の猫に対してことさら排他的な態度はとらないので、ヘータの縄張りの中に他の猫も住み着いているが、万一ヘータに敵対的な態度を取ったら即座に叩き出している。そのため、ヘータの縄張り内は猫社会で最も治安のいい地域となっているとかいないとか。




