第5章「公爵家の嫡子」 - 09
「中等部の?」
カインリルの言葉にノルフレドは怪訝な表情をした。
「はい。中等部と言っても、先日ベルデグリに認定された実力者です」
「中等部でベルデグリに。それはすごい。しかし、いくら実力者と言っても中等部の学生では釣り合いが……」
「マナさんの実力は僕が保証します。恐らく高等部の最優秀者と戦っても、互角以上の戦いができるはずです」
「うーん……しかし……」
カインリルは強くアピールするが、ノルフレドはなかなか納得する様子はない。
ノルフレドの方もベルデグリの重みは十分分かっているが、高等部と中等部の実力差についての常識に加え、カインリル自身が王立プレミュール校の中でもトップクラスの実力者であるという事実がノルフレドに二の足を踏ませていた。
「これは僕の要望です。聞いていただけませんか?」
なかなか首を縦に振らないノルフレドに対し、カインリルはやや声音を固くしてそう告げた。それを聞いてノルフレドはハッとしたように顔を上げてカインリルを見た。
「で、では、マナさんの実力が分かる客観的なデータ、例えば試合記録とかを確認したうえで最終的な判断を下すということにするのはどうでしょうか?」
「いいですよ。じゃあ、明日、僕も同行して試合記録を見させてもらえるようにお願いしてみましょう」
「よろしくお願いします」
「あ、それから、試合では『エリアヒール』の使用はなしということにしてもよいですか?」
「それはどういうことですか?」
エリアヒールというのは魔法組手用に開発された魔法で、闘技場などの限定された範囲で魔法による火傷、凍傷、打撲、切り傷などの軽い怪我に対する治癒能力を高めるというものだ。
これを使えば魔法組手で使われるレベルの魔法なら、誤って直撃を受けたとしても大事に至ることはないが、闘技場全体に常に魔法を掛け続けることになるので、他の魔法との干渉がわずかながら発生するという問題点がある。
トルニリキア学園では実戦に近い環境で組手をすることが重要としてエリアヒールを使用しないが、王立プレミュール校では安全性を重視してエリアヒールを使うことが慣例となっていた。
「エリアヒールはこちらでは使われていないと聞いています。せっかくの交流試合ですからこちらの流儀に習ってみたいと思うのです」
建前はそうだとしても、カインリルの本音は試合でマナから侮られたくないという気持ちから来ているのは間違いない。ただ、ノルフレドはそういう事情は当然知らなかった。
「カインリル様の身の安全を守る身としては本来なら許可できないことですが、明日、マナさんの試合記録を見てから考えてみましょう」
「本当ですか。ありがとうございます」
ノルフレドの反応は予想外に柔軟なものだった。もっと強い抵抗があるものと思っていたカインリルは拍子抜けた気持ちだったが、藪蛇を避けて、あえてその意図を確認することはせずに明日の予定だけを確認して部屋を出た。
カインリルが去った後、ノルフレドは引き出しにしまったものを取り出して険しい顔をしていた。その表情はそれまでカインリルに見せていたものとは全く異なっていた。
「これは好機なのか、あるいはただのニシンの燻製なのか?」
公爵家の嫡子【終】




