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第5章「公爵家の嫡子」 - 08

 「……でも、それとカインリルのプロポーズとは話が別だわ」

 「だけど、知ってる? アズレント公爵家って本当にちょー名門なんだよ。どのくらいちょー名門かっていうと、ハンセタール王国の紋章のペガサスはアズレント公爵領が産地なんだから!」


 ペガサスというのは翼を持つ空飛ぶ馬で、空を飛ぶ大型の魔法生物としてはワイバーンと並ぶ双璧だ。ただ、生息地も個体数も限られていてその知名度に引き換え実物を目にすることはほとんどない。


 ハンセタール王国は建国神話にペガサスが登場することからペガサスを紋章として採用しているのだが、過去の乱獲と環境の変化でアズレント公爵領以外ではほとんど捕獲されなくなってしまった。


 今では、ペガサスを使い魔として持つことができるのはハンセタール王家、アズレント公爵家の他には、王家から特別に許可されたものだけとなっているのだ。ちなみに、クプーティマ王家にはハンセタール王家からペガサスが2頭寄贈されている。


 「いくら名門でも関係ない。あたしの隣に立つのならあたしより強くないと」

 「もー、マナの脳筋っぷりには開いた口が塞がらないわ」

 「何言ってんの。脳筋っていうのはバドルスみたいなのを言うのよ」


 マナの抗議にミレイはジト目で返した。


 「ボクにはどっちもどっちだと思うけど。でも、カインリルさんの提案はあながち的外れでもないんだね」

 「どういうこと?」

 「結局は、君に勝てば君に認めてもらえるってことなんだから」

 「ん、まあ、そう言われればそういうことでもあるね」


 マナはまずいものでも食べたような顔をしてそう言った。そして、事実を告げるような冷静さでそのあとの言葉を続けたのだ。


 「でも、残念ながら、カインリルじゃあたしに勝つのは無理だわ」


 その隣では、ヘータが平和そうな顔で大あくびを一つして目を半分閉じたまま座っていた。



 「カインリル様」

 「ノルフレド先生。僕は一介の生徒なんですから、様をつけないでくださいと言っているじゃないですか」

 「そんなわけには参りません。カインリル様は公爵家の嫡子でいらっしゃって、ゆくゆくは公爵家をお継ぎになる立場なのですから」


 留学生の引率をしているノルフレドに声を掛けられたカインリルは、自らの呼び方に関する何度目かの抗議をしたが、ノルフレドは聞き入れる様子はなくカインリルは目立たないようにため息をついた。


 ハンセタール王国からの短期留学生はトルン市内の大きな屋敷を1つ借り切って全員が一緒に滞在している。その場所はマナやバドルスの家と同じトルン市北東部の高級住宅地の一角にあった。


 「で、なんでしょうか、先生?」

 「交流試合の件でお話があります」

 「分かりました。ピーちゃんの世話が終わったら、先生のお部屋に伺います」


 そう言ってカインリルは、厩舎からノルフレドを送り出すと、再び愛馬ピッタヴの背中に丁寧にブラシをかけるのだった。



 「カインリルです」

 「入ってください」


 ドアのノックを聞き、ノルフレドは手に持っていたものを引き出しにしまい、自ら立ち上がって部屋のドアを開けた。


 「失礼します」


 ノルフレドはカインリルを椅子に座らせ、自分も対面に座った。


 「交流試合の対戦相手の候補者のリストを受け取っています。目を通していただけますか?」

 「僕の相手はもう決まっています。中等部のマナさんということで返事をしておいてください」

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