第5章「公爵家の嫡子」 - 06
「アズレント公爵!?」
「申し訳ないけど、僕はまだ公爵ではないよ。ただのカインリルさ」
いちいち話の後にキラーンと光りそうな爽やかさで返事をしたカインリルだが、マナは傲然とした様子で顔を上げてカインリルを見やった。
「何か用かしら?」
「2年ぶりの再会だからね。ぜひあなたと話がしたいと思ったんだ」
「あたしは別にしたくない……」
「え、待って、マナ。君、カインリルさんと知り合いだったの?」
マナの予想外の一言にミレイが声を上げて話を遮った。見方によっては無礼なその態度にも、カインリルはにっこりと微笑んで答えた。
「そうだよ。2年前、僕が今回みたいに短期留学生としてここに来た時に、僕はマナさんに一目ぼれしたんだ」
「その話はもう断ったはずよ」
「そう。僕はそれで反省したんだ。あの時の僕は思いあがっていた。あなたに釣り合う男になるためには、もっと強くならなければならない。だからこの2年間、僕は必死に努力してきたんだ」
――気障にゃうえに暑苦しいやつにゃのか。これは相当めんどくさいにゃ。
最後のアジのフライの尻尾を飲み込みながら、ヘータはそんなことを考えていた。だが、所詮、絡まれているのはマナなのでヘータには他人事なのだった。
周りを見回してみると、いつの間にかマナたちのテーブルの周りには人だかりができていた。
それもそのはず。片や学園で最もホットな天才魔法少女、片や異国の貴公子。しかも内容は色恋事情となっては耳目を集めないわけにはいかない。皆、物音ひとつ立てずに2人の会話に聞き耳を傾けていた。
「あ、そ。でも、残念ながら、時間は誰にでも平等に流れているのよ」
「でも、皆がその時間を同じように過ごしているとは限らない。僕は君に挑戦したいんだ」
「あたしは中等部。あなたは高等部。あたしとあなたが試合をする機会なんてないわ」
マナはそう言うが、機会がないのは授業で組手をすることはないということであって、非公式の練習試合まで禁止されているわけではない。ただ、カインリルが申し込んだとしてもマナが受ける気はないということを暗に示していた。
「僕は、交流試合の相手にあなたを指名するつもりだよ。そして、僕が勝ったらもう一度プロポーズさせてくれないか」
「なんでそんな面倒なこと、あたしがしなきゃいけないの?」
「君は最近ベルデグリに選ばれたんだよね。だったら、交流試合を断るにはそれなりの理由が必要なんじゃないか?」
カインリルたち留学生は魔法技術の交流のために来訪しているので、滞在中に交流試合を行うことになっている。対戦相手は力量の近いもの同士を学園側が選抜するが、留学生の側から希望を出すこともできる。
マナはベルデグリに認定されているので、出席を求められた公式行事への参加は義務ということになっている。交流試合も公式行事に準ずるものと言えなくもないので、マナが拒否することは相応の理由がなければ難しいと予想できた。
「くっ……分かったわ。その試合、受けてあげる。ただし、あたしが勝ったら2度とあたしに近づかないと約束して」




