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第5章「公爵家の嫡子」 - 04

 ミレイがそわそわしているのは、今回の短期留学生の中にその高位貴族が含まれているからなのだ。


 実はその貴族は2年前にも一度来たことがあるのだが、その時はミレイは初等部だったので直接見ることはなかった。だから、ミレイがその貴族を見るのはこれが初めてだ。


 「前に来た時はまだ中学生だったんだよね。その時からちょー美形だったって言うからきっとちょー美男子になってるんだよ」

 「はいはい」


 ミレイが興奮してマナに小声で話しかけてくるが、マナはめんどくさそうに相槌を打つだけだった。


 やがて壇上に短期留学生の一行が登場した。一行は高校生が7人、中学生が2人、それに引率の教官が1人に専属の医療チームが3人の計13人だった。


 彼らは皆、ハンセタール王国随一の魔法学園である王立プレミュール校に属している。誰にでも門戸を開いているトルニリキア学園とは違い、王立プレミュール校は貴族のみが入学できるので、学生たちはみな貴族なのだ。


 医療チームも王立プレミュール校の大学部に所属する教官1人に大学生2人で、彼らは親善試合での学生や使い魔の治療を担当することになっているが、ついでにトルニリキア学園の大学部とも交流する予定になっているらしい。


 「はー、やっぱりちょーかっこいいね」


 会場のそこかしこでため息が漏れているのは、一行の中心に立っている貴公子が原因だ。あれこそがハンセタール王国アズレント公爵家の次男にして嫡子ちゃくしであるカインリル=アズレントだった。


 トルニリキア学園の先生による挨拶があったのち、留学生側から代表者の挨拶としてカインリルが歩み出た。


 「ご機嫌麗しゅう、トルニリキア学園の皆様」


 そう言って優雅に一礼するカインリル。物腰の優美さは礼儀作法に疎いところの否めないトルニリキア学園の学生たちにはちょっと真似のできないところだ。


 「本日はわたくしたちのためにこのように盛大な式を開いていただいてありがとうございます」

 「……本当に口はうまいよね」


 カインリルの挨拶を聞きながら、マナがぼそりとつぶやいた。


 「どうしたんにゃ?」

 「口だけのやつがどんなお世辞を言ったってちっとも心に響かないわ」

 「そうにゃのか? でも、みんな感激してるみたいにゃぞ?」


 ヘータはもう一度舞台上に立つイケメンをまじまじと見つめたが、マナが何を言いたいのかは分からなかった。


 そのカインリルはどうやら魔法使いらしく挨拶代りに魔法を披露するということだった。


 「折角ですから、わたくしたちの国ではありふれていますが、こちらではまず目に触れることはないものをお見せしたいと思います。<発現(レムス)>」

 「「<発現(レムス)>」」


 カインリルが詠唱すると同時に、後ろに並んでいた留学生たちも一斉に詠唱した。


 カインリルが発現させたのは風と水の魔法で、会場全体に雪に包んだ。それを他の留学生たちが作り出した魔法の光でライトアップして、幻想的な景色を作り出した。


 ハンセタール王国はクプーティマ王国の北方に位置し、国土の多くで気候が寒冷なため毎年の雪が降り、地方によっては豪雪に見舞われる。しかし、クプーティマ王国は温暖で一年を通して雪が降ることはないのだ。


 「すごい」

 「きれい」

 「素敵」


 あちこちからうっとりした声が聞こえてくるが、マナの表情は相変わらず不機嫌なままだ。


 「にゃんか気障きざなやつにゃ」


 寒さが苦手な猫はそうつぶやくと、目だけ残して顔までマナの服の中に潜り込んだ。


 その隣では、ミレイがきゃあきゃあと言いながら降ってくる雪を手で掴もうとしていた。

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