第4章「デモンストレーション」 - 09
「おつかれ」
そんな雰囲気の中、マナは重い鉄球を軽々と引きずって戻ってきたヘータに軽く声をかけて防具を外してあげた。念のため確認したが、ヘータの体には痣一つついていなかった。
「今のは何だ?」
声をかけられたのでマナが顔を上げると、顔を青くしたバドルスが側に立っていた。
「何? まだ何か言いたいことがあるの?」
「いや、そうじゃなくて、今、何が起こったんだ?」
「見たままじゃない」
「それが、その、見てなかった……、いや、見えなかったんだ。教えてくれ。この通りだ」
いつもの高飛車な態度は影を潜めて、マナに頭を下げてお願いするバドルスの様子に心が動いたのか、マナは片づけの手を止めて説明してやった。
「オロンが倒れたのは簡単よ。鉄球で顎を下から打ち抜かれたの。どんなに硬い鱗に覆われてても、脳震盪を起こしたら立ってはいられないわよね」
「でも、オロンはブレスを吐いていた。下に入り込む隙があるはずが」
「いくらでもあるよ。例えば、ブレスが届く前にその下をかいくぐるとか」
「そんなの、間に合うはずがない!」
「現に間に合ったじゃない」
「それはそうだが……」
バドルスがヘータを見ると、ヘータは台車の上に載って欠伸をしているところだった。この可愛い子猫が象のように大きなゼオウィルムを単独で仕留めたとはにわかには信じがたい。
「分かってると思うけど、ヘータは強力な魔法で身体強化してる」
「それはさっきの試合を見れば分かる」
「でも、普通、そんなことをしたらまともに歩くこともできないの。分かるよね。気を付けて歩かないと歩くたびに屋根の上までジャンプすることになるわ」
「そうだな」
「ヘータはね、そんな状態で普通の猫みたいに生活してるのよ。これで分かったかしら?」
「……」
バドルスが押し黙ってしまった時には、木箱から延びる太いつるによって鉄球も台車の箱に戻され片づけは完了していた。
実のところ、ヘータが常にそんな強力な身体強化をしているわけではない。確かに普段からかなり強化はしているが、常時500kgの鉄球を持ってウィルムのブレスの下をくぐるほどの身体強化をしていたら、細心の注意を払っていないとちょっと猫パンチをするたびにいろいろなものを破壊してしまう。
だが、ここは嘘も方便。ヘータの身体能力を誇張して言っておけば、マナがヘータを使い魔として連れて歩いていることについて誰も疑問に思わなくなるはずだ。
「じゃ、あたしは帰るわ。ミレイ、一緒に帰る?」
「あ、うん。途中まで行く」
途中で絡んできたカルネを無言で突っ切り、図書館に用があるというミレイと正門付近で別れ、橋を渡ったところでヘータが口を開いた。
「ふー。わざと接戦を演出するのも一苦労だにゃ」
「実は、本気で苦戦してたんじゃないの?」
「なわけにゃーだろ。大体、余裕で避けられるとろい攻撃にわざわざ当たりに行くのはにゃかにゃか難しいんにゃぞ」
マナがからかうとヘータはバカにしたような様子で返事をした。
実際、試合中、ヘータはオロンの攻撃を完全に把握していて、わざとぎりぎりで致命傷を避けているように演出して見せていたのだ。その演技はあまり上手いとは言えないのでマナにはよく見えていたが、他の観戦者は先入観も相まって全くそのことに気づいてはいなかった。
「ま、これで明日からはめんどくさいことで絡まれたりしなくなるわ」
「そうだにゃ。やれやれだにゃ」
デモンストレーション【終】
来週1週間は投稿はお休みします。その間、もう1つの連載小説である「※急募※ 職種:国王 年収:1千万円 勤務地:異世界」を更新します。
今後ともよろしくお願いします。




