第4章「デモンストレーション」 - 08
オロンがブレスを吐いたその瞬間、ヘータは鉄球の把手に尻尾を絡めたまま、助走もつけずに真上に飛び上がり、一瞬でオロンの死角に入って真上から鉄球を叩きつけた。
ズシャン
「ギアアァァァァ!」
鉄球はオロンの頬をかすめて左足爪先へと直撃した。予想外の攻撃による痛みに叫び声を上げるオロン。無意識に振り回す手の爪がヘータの首をかっ切りそうになるが、運良く鎧の肩当てに爪が当たり、ヘータは首が切れるのは避けられたものの反動で吹き飛ばされた。
ヘータの着ている防具は剛性を高めて衝撃を受けた時の変形や破壊を防ぐものだ。子猫でも着れる厚みしかない防具でも、オロンの爪を受けてへこんだり裂けたりすることはなかった。
ただ、防具が壊れなかったと言っても衝撃を消すことはできない。
ヘータは闘技場の床にたたきつけられて2、3回転床を跳ねて転がったが、尻尾で掴んでいる鉄球の重みでそれ以上転がることはなかった。
悲鳴をあげそうな顔でミレイがヘータの様子を確認しようとした時、ヘータはダメージを全く感じさせないスピードで再びオロンに肉薄した。もちろん、超重量の鉄球を持ったまま。
対するオロンはまだ左足の痛みに顔をゆがめている。その死角を突くべく負傷した左側面へと回り込んで鉄球を脇腹へと叩き込んだ。
だが、爪先とは違い、腹部の鱗は厚く、鉄球をぶつけても大したダメージを受けたようには見えない。
――さすがに硬いにゃ。
ヘータが呻くように鳴き声を漏らした時、今度はウィルムの太い尻尾による強烈な一撃が遅い、子猫はなすすべもなく弾き飛ばされた。
「オロン、大丈夫かっ!」
「ギァァ」
バドルスの問いかけにオロンは力強く答えた。どうやら左足のダメージは大したものではないようで、もう痛みに顔をゆがめることもない。
一方のヘータも今度は空中で姿勢を整えてきちんと着地をしていた。さっきの腹部への一撃が通らなかったため、少し間合いを取って攻撃の狙いを定めなおしているようだ。
「オロン、ブレスッ」
バドルスがそう言うと、間髪を入れずにオロンの口から高温のブレスが吐き出された。よく訓練された連携らしく、掛け声からブレスの発現までほとんどタイムラグがない。
が、ブレスが届いたとき、すでにそこには子猫の姿はなかった。
「上かっ!! ……、消えた!?」
誰もがさっきと同じ上からの奇襲を予想して視線を上げたが、その先にあるのは晴れた空だけだった。
ガンッッ
「ンンッ」
鈍い打撲音と声にならない叫びの後、オロンの身体は後ろにのけぞるように仰向けに倒れた。身体は小刻みに痙攣していて起き上がる気配はない。
闘技場は静寂に包まれた。
「……し、勝者、ヘータ!」
一瞬遅れて、シシーが試合終了を宣言した。だが、ほとんどの観客はまだそこで起きたことが信じられず、呆然としているようだった。




