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第3章「デビュー」 - 09

 「先生」

 「お、マナ。またやらかしたみたいじゃん」

 「何もやってません」


 放課後、マナとヘータは学園の一角を訪れていた。ここはシャーミルという女性が体術の授業を行っている教室で、マナはよく放課後に訪れて稽古を受けているのだ。


 マナが個別に練習している武術は剣術だけではなく、広く普及しているものは大抵修めていた。特に、体術は剣術とは違い、魔法使いであっても習得するものは少なからずいるため、学園内に専門の教師もいてマナもその教師に師事していた。


 魔法使いが体術を学ぶ理由は、剣術は剣を握ることで結印ができなくなるという弱点があるが、体術にはそういう問題がないため、魔法と組み合わせることで戦闘に緩急をつけられるためだ。


 「よろしくお願いします」

 「よろしくお願いします」


 道場の中央でマナとシャーミルが向かい合って一礼した。ちなみに、ヘータは少し離れたところで見学だ。


 「ふっ、はっ」

 「んっ、やぁっ」


 2人がやっているのは魔法を使わない純粋な体術だ。通常、授業で行うのは魔法を使うことを前提とした体術なので、マナのやっているのは学園ではかなり珍しい。


 体術において魔法のあるなしの大きな違いはその間合いだ。


 魔法ありの場合、主体はあくまで魔法なので体術は魔法を行使する隙をつくることが主眼になる。魔法攻撃に対する警戒も必要なので、積極的に技を決めるより少し間合いを取った探り合いが多くなる。


 それに対し、魔法なしの場合は、攻撃するには手なり足なりを相手の体に当てなければならず、魔法攻撃の警戒もないので、より近い間合いで相手よりも速く強く攻撃することが必要となる。


 また、魔法の有無は技のバリエーションにも影響を与える。魔法ありでは隙が生まれにくい立ち技が主体となるが、魔法なしでは寝技、関節技、投げ技なども最大限に使われるのだ。


 事実、先ほどからのマナとシャーミルとの戦いは互いの襟を取り合ったまま、相手の態勢を崩そうと当身を繰り出していた。


 中等部2年のマナと背の高いシャーミルでは体格差がありすぎるが、シャーミルが手加減していることを差し引いてもマナは善戦していると言えた。


 「ありがとうございました」

 「ありがとうございました」


 結局、マナはシャーミルから3本連続で取られて今日の稽古は終わった。


 「なかなか先生から1本取るのは難しいです」

 「いやいや、真剣勝負になったら、もうあたしじゃお前には勝てないよ」

 「そんなことはないです」

 「そんなことを言って、稽古中に結印を何回も完成させていたことくらい気づいてるよ。あれを目の前で発現させられたら、その時点であたしの負けだ。しかも、ご丁寧にあたしの方の結印はきちんと牽制してたしな」

 「でも、これは魔法なしの体術ですから。それに、最後の1本は牽制した隙を逆に突かれて取られてしまいました」

 「それにしたって1本取られる前に防御魔法をきちんと準備してたことくらい気づいてるよ。ああ、これ以上言ってるとこっちが悲しくなってくる。もう、これでおしまい」


 そう言うと、シャーミルはくるりと後ろを向いて立ち去ろうとした。


 「あ、すみません、先生。一つお願いが。魔法考古学に詳しい人を知りませんか?」

 「なんだ? 何か骨董品でも手に入れたのか?」

 「まあ、そんなところです」

 「ふむ。……それならちょうどいいのがいる。ちょっと変わり者だが信頼できるよ」


 シャーミルは紙を持ってきて、そこに地図をさらさらと書いてマナに渡した。


 「ここを訪ねてケディという人物を訪ねるといい。まあ、いつもどこかに出かけてるから会える保証はないけどな」

 「ありがとうございます」

 「お礼はいいから、いい人がいたら紹介してよ」

 「中学生でもいいんですか?」

 「…………できればもうちょっと大人がいいかな」

 「考えときます」


 そう言ってマナはシャーミルの教室を後にした。


 そういうことを頼むのはマナより学園長の方が適任に違いないと思うのだが、それを言うと皆嫌そうにするのでシャーミルには言わなかった。



デビュー【終】

当初予告した通り、明日からは通常の週3回投稿というペースに戻したいと思います。


今後ともよろしくお願いします。

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