第1章「ベルデグリ」 - 02
「寝てていいわよ」
姿を消した少女が再びその気配を現したのは、バドルスの目の前、オロンの真後ろだった。
「後ろだっ!」
バドルスが叫ぶが、オロンが振り返るより早く、マナは手に持った剣を石張りの闘技場の床に突き刺した。
「<発現>」
少女が呪文を唱えた直後、剣を突き刺したところが大きな爆発音とともに吹き飛んで、オロンの巨体もろとも闘技場の外へと吹き飛ばした。
「くっ、<発現>」
とっさに、バドルスは両手を組んで印を結び、石つぶての魔法を発現してマナを攻撃した。
しかし、マナは襲い掛かる石つぶてを、あらかじめ軌道を知っているかのように軽々と避けて少年に接近する。
「チェックメイト」
そう言って長剣を少年の喉元に突き付けたマナは、審判に試合終了を催促するように手を振った。
「くっ、君はそうやって今日も逃げるのかっ」
「あたしが何を逃げてるって言うの?」
「魔法使いなら魔法使いらしく、魔法で勝負したまえ」
「魔法なら使ってるわ」
「なら、どうして剣を使う。今も剣ではなく魔法で攻撃すれば済む話だったではないか」
喉元に剣を突き付けられたまま、バドルスはマナに食い掛かった。マナはその言葉を苦々しく聞いていたかと思うと、剣を握っていない左の手をバドルスの方に向けた。
「そんなに痛い目に合いたいなら望み通りにしてあげるわ。<発現>」
「ぎゃぁぁっっ!! ……」
マナの手がバドルスの首筋に触れた瞬間、彼は短い絶叫を上げて、そのまま意識を失って闘技場の床に横倒しに倒れこんだ。
「試合終了っ」
審判が慌てて叫ぶと同時に、待機していた医療スタッフが少年のもとに駆け付けた。
「大丈夫よ。ちょっと水魔法で痛覚神経をひねって気絶させただけだから。直に気付くわ」
そう言って闘技場を去ろうとするマナに、審判が声をかけた。
「マナ、学園長先生がお呼びです」
「分かりました、先生。これから行ってみます」
そう言って、途中で紐を拾って背中に剣を括り付けた彼女は、悠然とした態度で更衣室へと向かったのだった。