第28話
ヘータが海に落ちた頃、マナは島の上空にいた。夜目は利かないものの、魔力の痕跡から2人の探しつつ、昼間に行ったトゲバツツジの湖畔に向かったのだ。あそこが影の本拠地なら、最終的には影があそこに帰ってくるのではないかと思ったのだ。
――いないわね。
湖畔に着いたマナが辺りを確認したが、それらしい気配は感じられなかった。マナは魔力結晶を持っていて、影もマナを見たらただ黙っているということはないはずなので、何も起こらないということは見える範囲には影はいないだろうと思われた。
――この中は?
洞窟の入り口の穴を見つけて、その中にいないかと覗いてみたが、さすがに暗すぎて全く何も分からなかった。
――さすがに中に入るのは止めておいた方がいいわね。
さっきの影の本拠地がここならば、この中は影のホームグラウンドだ。洞窟内部の地形をフルに活用して戦いを挑まれたら、マナにも凌ぎ切れるか分からない。
ここにきて手掛かりがないのなら、夜明けを待ってから再度捜索する方が得策という考えもある。ヘータが帰ってきているかもしれないから、一度キャンプに戻るべきかもしれないとマナは考えた。
それに、さっきから頻りに何か嫌な予感がしているのだ……。
「ヘータは?」
「まだ帰って来てないよ」
マナとヘータは契約によってつながっていて、離れていてもお互いの存在を身近に感じることができる。相手に危機が迫っている時は虫の知らせのようにそれを感じることができると、マナは知識として知っていた。
が、これまでそれを実際に体験したことはなかったので、今感じている嫌な予感がそれなのかどうか確信が持てなかった。
――こんなことなら、あらかじめヘータをクプア河に沈めて何が起きるか確認しておくべきだったわ。
ヘータは泳げないので学園前の河に沈めてしまえば簡単に危機的状況に陥る。その時にどういう感じがするのか調べていたら、今の感覚がそれなのかどうかが分かったはずなのに、などという考えがマナの頭によぎった。
「分かった」
「ちょっと、待って」
帰ってきたと思った途端に、マナが再び飛び去ろうとしたので、ミレイは慌てて引き留めた。
「どうしたの、マナ。ちょーすごい顔になってるよ」
「……、分からない。そんな顔してる?」
「ちょーしてる」
「分かった」
マナはそれを聞いて、やはりヘータに何かあったのかもしれないと危機感を強め、さらに急いで飛び去ろうとした。
「待ってってば。これ、持って行って」
飛び去り際、ミレイが投げつけるようにマナに手渡したのは例の魔法の松明だった。マナはそれを受け取ると、今度は何も言わずに真っ直ぐに空へと飛び立った。
といっても、マナには危機感は感じられてもヘータがどこにいるかを感じ取る術はなかった。あるいは以前から訓練していたらマナとヘータの繋がりをたどってヘータの居場所を特定できたのかもしれないが、今のマナには無理だった。
が、今回はさっきとは状況が異なっていた。
――こっち!
マナが影を追いかけてトゲバツツジの湖畔に行った後、影とヘータは魔法戦を交えていた。その残滓がまだ辺りには残っていて、2度目に通ったマナはその違いに素早く気づいたのだ。
魔法戦の残滓の最も濃厚な辺りを探って地面に降りたが、そこにはすでに人影はなくなっていた。
「<発現>」
マナはミレイから手渡された魔法の松明を点けて辺りを照らし、さらに目を凝らして見渡した。松明を付けると向こうからこちらの居場所が筒抜けになるが、気が立っているマナはむしろ来るなら来いという気持ちだった。
しかし、その心配に反して影が飛びかかってくることも、暗がりから魔法が飛んでくることもなかった。
――もしかして、ヘータが負けて連れ去られた? いや、ヘータに限ってそんなことは……。
マナは松明をかざして地面を念入りに確認して歩いた。地面には足跡や遺留品が残っている可能性があり、影の手がかりがつかめるかもしれなかった。それに、ヘータが地面に倒れていたら、注意していないと身体の大きさと体毛の色のせいで見落とす可能性もありえた。
と、マナは地面に何かが落ちているのに気づいた。
――これは、……、血?
慌てて松明を近づけると、確かにそれは血のようだった。しかも、まだ新しい。
――近くにいる!
マナは松明で足元を丁寧に照らしながら、逸る心を抑えつつ、地面に落ちたわずかな血の跡を頼りに影の行方を追い始めた。
12月は他作品の集中更新月間となり、本作の更新はありません。本作の次回更新は来年となる予定です。
よいお年を。




