第26話
「どこで見つかったの?」
「洞窟の中。こっちに出口があるんだよ」
ミレイに案内されて歩いていくと、トゲバツツジの群生に隠れるように身体が何とか通る程度の小さな穴が開いていた。
「ほら。ここから中に入るの。入り口、ちょー狭いから気を付けて」
「これ、通れないかも」
「胸のこぶがつっかえるのにゃ?」
「ヘータが先に入りなよっ」
「にゃぅっ」
ヘータとミレイに続いて穴に入ると、入り口の狭さから想像した以上に中は開けていた。
「<発現>」
ミレイが魔法の松明に光を灯すと、洞窟の中が明るく照らし出された。
「ほら、こっち。誰かが住んでいるみたい。魔力結晶はここにあったんだよ」
そこは確かに誰かが住んでいそうな場所だった。寝床のような場所があり、何かを食べたカスが集められている場所があり、机のようなものが置いてあり、その上には紙の束まであった。
「これは何が書いてあるの?」
そう言いながらマナは紙の束を手に取り、紙をめくって中身を見て見た。が、意味のある内容は書かれてはおらず、汚い字で同じ文が何度も繰り返し書かれているだけだった。
「それ、何なんだろうね?」
ミレイが覗き込んで首を傾げた。マナは軽く頷いて紙の束を机の上に戻した。
「字の練習よ。親が熱心だったんだわ」
「親? ここに住んでるのは子供なの?」
「さっきの入り口の穴、大人が通るにはかなり厳しいわ。子供と考えるのが自然ね」
――そして、子供でありながら、あの威力の魔法を放つ力を持っている。
少しずつ情報のピースを集めて行くと、ここに住んで魔力結晶を盗んだ者の輪郭が少しずつ浮き上がってくるように思えるが、それは通常では考えにくいもののようにも思えた。
「それはともかく、この魔力結晶はカインリルのじゃないわ」
「ええっ?」
「装飾が違うし、そもそも、封入されている魔力が違うわよ」
「何で魔力の違いが分かるんだよ」
「分からないの?」
マナはきょとんとした顔をしているが、そもそも前に述べたように人間は魔力を直接感じることはできないので、固有魔力の微妙な違いなど普通は区別できるようなものではない。鋭敏な感覚を持つマナだけが可能な芸当だ。
「とにかく、これは持って帰るわ」
マナはそう言うと、魔力結晶を胸に収めて洞窟から外に出た。
「マナ、ここからどうやって帰るのだ?」
「空を飛べばいいんじゃない?」
「ひっ」
マナが言うと、向こうでデミの短い悲鳴が聞こえた。マナとの空の旅は相当にトラウマを残す結果になったようだ。
「全員が飛べるわけではない。歩く道はないのか?」
「じゃあ、洞窟の中を通る?」
「いや……、洞窟は危険があるから、地上を歩こう」
「シャーミル先生、それは……」
「シシー、言うな」
今度はシャーミルが文句を言って、結局マナたちは地上を歩いて帰ることになった。シシーはシャーミルの何かを知っているようだけれども、それが何かを話そうとはしなかった。
帰り道は森の中を歩くのは道に迷って危険なので、川沿いに歩いていくこととなった。が、ところどころ急流で川岸の狭いところもあり、そういうところでは川の浅瀬を歩く必要があったので、みんな戻る頃には足元がずぶぬれになってしまった。
服は着替えがあるが、身体は冷えてしまったので、また昨日作った露天風呂にみんなで入ることとなった。今度は魔力結晶をなくさないように、マナの首から掛けたままで風呂に入った。
「あーあ。せっかく魔力結晶が見つかっても、カインリルさんのじゃないとちょー意味ないね」
「そんなことはないわ。これはこれで役に立つよ」
「そうなの?」
「デミさん、どうしましたか」
「えっ、あ、え、ちょっと、考え事を……」
上の空だったデミは、カルネに指摘された時は適当にごまかしたが、頭の中では池の上空で誰が魔法を使ったのか、まだ考えていた。
あの時は恐怖で思考が途切れてしまったけれど、今思い出してみると、あの場にいたのはデミとマナの2人でマナは飛行魔法を使用中でデミは魔法を使っていなかった。そもそも、デミは、マナにしがみつくのに必死で結印を組む余裕もなかったのだ。
その時、魔法は間違いなく放たれていた。それなのに、その魔法を発現したものはいなかったのだ。
デミは自分以外の誰かの意見を聞いてみたいと思ったけれど、あり得ない状況に誰も信じてくれないのではないかと思うとともに、もしマナがその不思議な魔法発現を意図的に行ったのなら、マナの隠し技を勝手に暴露することになってしまうかもしれないと思って一人で考え込んでいた。
一方のマナは、ヘータがデミの前で魔法を使ったことについてはあまり悩んでいなかった。もちろん、ヘータが魔法を使えることを公表するつもりはなかったので、あれは素早く飛行魔法を再発動して、スムーズに飛行を継続したのだと説明するつもりだった。
それよりも、マナの思考の中心は魔力結晶を盗み、トゲバツツジの陰から魔法を放ってきた何者かについてだった。
その何者かがカインリルの魔力結晶を盗んだのは、それが価値の高そうな宝飾品だったから盗んだというわけではなく、魔力結晶であることを理解して盗んだのだとマナは確信していた。そして、その何者かがカインリルのとは別に保管してあった魔力結晶が、今、マナの胸に掛かっている。
犯人は必ずこの魔力結晶を取り返すためにマナの前に現れる。それが勝負の時だ。




