第24話
洞窟の中はひんやりとしていた。1日中太陽の光を浴びない地中にあるから当然だが、一年中暖かい南の島にあることを考えると不思議な感じがした。
一行は警戒しながら奥へと進んでいったが、神龍のような大きな生物が住んでいるという証拠は見当たらない。
「おい、上」
バドルスが指さすところを見ると、天井の高いところにコウモリがたくさんぶら下がっていた。しかも、よく耳をそばだてると、さっきから何重にも重なって聞こえていた「ギ、ギ、ギ」という音はあのコウモリたちが発していたものだと分かった。
「うわ、ちょー気持ち悪い」
「メニエコウモリですわ。危険ではないですが、脅かさないように静かに行きましょう」
カルネが冷静な声で静かに言うと、再び一行は洞窟の奥へと進み始めた。
「先生、どうしたんですか?」
「な、なんでもない。大丈夫だ」
同行するシャーミルが前を歩くシシーの背中を何度か押したので、シシーがたずねると、シャーミルは平静を保った風に答えた。が、実はコウモリが苦手だったシャーミルは、内心では大量のコウモリの出現にびくびくしていたのだった。
「昨日はこの辺りだったわね」
マナたちは、昨日の事件があった崖の付近に来ていた。
「あ、あ、あ、思い出したのにゃ!」
と、崖の付近を歩いていたヘータが突然大声で喚き始めた。
「何、ヘータ?」
「昨日、ここに来たのにゃ」
「そうよ。忘れてたの? 昨日、ここで生徒が落ちて……」
「違うのにゃっ! 昨日の夜、ここに来て、記憶を失って、気が付いたら海にいたのにゃ!」
「あなた、夜中にそんなことをしてたの?」
「別にいいのにゃ。それより、ここはやっぱり怪しいのにゃ」
マナとヘータが会話している傍ら、デミは崖に生えるトゲバツツジの群生の調査を始めていた。
「飛ぶわよ。<発現>」
デミが崖の中腹の群生を調べようと崖から身体を乗り出しているのを見たマナは、デミの腰を軽く抱いて飛行魔法を使った。
「ひゃ、マ、マナさま!?」
「支えてるから、調査に集中して。こっちの茂みでいいの?」
「は、はい。えっと、ここは終わっているので、あっちにお願いします」
崖の中腹は切り立っているので、飛行魔法を使えないと調査は難しい。マナはデミを抱きかかえたまま飛ぶことで、デミにそういうところの群生も調査できるように補助したのだ。
「そんにゃところの茂みの葉っぱがくっついてきたのにゃら、そいつはちょっと変わった生き物にゃ」
「少なくとも、このくらいの崖なら難なく歩き回れる生物ってことね」
「えっ、あ、はいっ。そうですね」
デミにはヘータの声が聞こえないので、マナがヘータに返事をした言葉を自分に話しかけられたと思ったデミは、唐突な言葉にびっくりした様子で返事をした。
「見つけた葉を見ると、切断面が引きちぎられたようになっているので、自然に落葉したものではなく、引っかかってちぎれたものだと思います。……、次はあっちへお願いします」
そうして順番に全ての群生を調査した結果、デミは予想外のことを言った。
「ここは違いますね」
「どうして?」
「ここには雄株しかないです。この葉っぱは雌株のものですから。ほら、葉の形を見るとこっちの方が少し潰れているでしょう?」
「う……ん?」
デミは当然のように言っているけれど、マナとヘータにはどこが違うのかさっぱり分からなかった。どうも、デミは本人は気付いていない特殊能力を持っているようだ。
「とにかく、ここは違ったということね。じゃあ、別のところを探さないといけないわね」
崖の上に戻ったマナたちは、今後の方針を検討した。
「デミ、何か考えはあるかしら?」
「さっきからどうしてここに雌株がないのか考えていたのですが、もしかして、実を食べるために集めて育てているんじゃないでしょうか」
「え、この木の実って食べられるの?」
「いえ、普通はまず食べないと思うのですけれど……」
デミは首を傾げながらそんなことを言った。もし木を植え替えて栽培しているなら、それは人間のような知的種族ということになる。しかし、人間がトゲバツツジの実を好んで食べるとはちょっと考えづらいと思ったのだ。
「変わった食べ物を好む知的種族ね……。まあ、それが本当に実在するかを検討するのは後にして、もしデミが栽培するとしたら、どこで栽培する?」
マナは何か思い当たったようだったが、そのことには触れずにデミの考えをさらに聞き出した。
「そうですね。水場近くの斜面で生育しますから、できるだけ広く斜面が広がるところで、傾斜があまり急でないところでしょうか。急斜面だと足場の確保が難しいですから」
「日当たりは?」
「必要です。近くの高い木で日照が遮られないようにしなければならないので、付近の木は切り倒しておく方がいいと思います」
「なら、上から見ればわかりそうね」
「はい?」
「<発現>」
「ひゃぁっ」
マナは再びデミの腰を抱きかかえ、今度は空高くへと舞い上がった。初めて大空を飛んだデミは恐ろしさに我を忘れてマナにしがみついた。




