第23話
お待たせしました。
「えっと、デミ?」
マナはいつも強気に振舞っているので気付かれにくいが、こういう感情的な局面は苦手で、これまで無意識に避けて来ていた。なので、デミに声を掛けるのも腫れ物に触るように声を掛けた。
「は、はいっ」
昨日からマナに冷たくあしらわれていると感じていたデミは、今回も氷のように冷たくて硬い壁を感じて肩を落としていた。なので、突然マナの方から声を掛けられて驚いた。
「つまり、要するに、端的に言うとね」
「はい?」
デミの目に映るマナの様子はどこか変で、肩に乗った使い魔の子猫に肉球でほっぺたをぐりぐり押されながら話をしていた。
「さっき何か言いかけてたのは何だったの?」
「え、ああ、はい」
「今は小さな手掛かりでも大切で、もしかしたら、デミが気付いたことが何かの重要なヒントになるかもしれないから……」
「は、はい。分かってます」
マナの口数もいつもより多くて、デミは妙なプレッシャーを感じながらも、マナの言葉を遮るようにしてさっき言おうとしていたことを話し始めた。
「その葉っぱなのですが」
そう言ってデミはマナが手に持っていた葉っぱを指さした。さっきヘータが見つけてきた葉っぱだ。
「それはトゲバツツジじゃないでしょうか?」
「トゲバツツジ?」
デミの言葉を聞いて、マナは首を傾げた。さすがに博識のマナでも、魔法と関係のない普通の植物の種類を網羅して記憶しているわけもなく、ましてや葉っぱの形だけから植物を同定できるわけもない。分かるのは、トルン市では見たことのない植物だということだけだった。
「はい、トゲバツツジです。水場に近くの斜面に群生する低木で、この島でも川沿いに自生しているのを見ました」
デミはそんな風に天気のことでも話すように見知らぬ葉っぱの説明をした。
「この近くにはトゲバツツジは生えそうなところはありませんから、動物か人の身体に付いてどこからか運ばれて来たのだと思います。この葉っぱのとげが引っ掛かったのだと思います」
「具体的にどこから来たか分かる?」
いつの間にか、マナの表情はいつもの鋭い顔つきに変わっていた。デミは手に持った葉っぱを見て、少し考えこんだ。
「……、葉っぱ1枚ではどの群生からかまでは無理ですけれど、トゲバツツジは川や池の土手にしか生えないので、島の中でそういう場所を探せば……」
そう言うと、デミは鞄の中から携帯用の地図を取り出した。この地図は、合宿中は常に携帯するように指示されているのものだ。
「この辺りと、この辺りと……」
「その地図は不完全よ」
マナはそう言って、地図の上に印を付け始めたデミを制止した。少なくとも、昨日生徒が崖から落ちた川と、丸石を採取した川は、地図には載っていない。それを考えると、他にも載っていない川がある可能性は高いと思われた。
「昨日、生徒が落た崖の付近にもあった?」
「ありました!」
「じゃあ、そこから私たちの誰かが運んできた可能性もあるのね」
葉っぱを運んできた可能性があるのは、魔力結晶を持ち去った犯人だけでなく、無関係の動物や自分たち自身の可能性もあるのだ。デミはそのことを思い出して、高揚したところに冷や水を掛けられた気分になった。
「先生の許可、もらったよ」
と、ちょうどその時、ミレイとシシーが戻ってきた。その後ろから、シャーミルも付いてきた。
「ただし、私も同行するぞ」
シャーミルが来たことで、離れたところで話していたカルネたちも集まってきた。
「カルネはどうするの?」
「私は洞窟を調査してみたいと思います」
「神龍の線を洗うのね」
「はい」
洞窟と神龍にどういう繋がりがあるのか、そもそも神龍がいるのかすら分かっていないが、魔力結晶を持ち去ったものが神龍でないとしても洞窟に潜む可能性はあり得る。
「あたしは昨日の崖をもう一度見て見るわ」
「まて。二手に分かれると私が同行できない」
「先生はカルネと一緒でお願いします」
「しかし……」
「お忘れですか? あたしはベルデグリですよ」
マナが受けたベルデグリの称号は単なる名誉だけでなく、本当に一人前の魔法使いとして取り扱われるということであり、緊急事態では国から戦士として召集を受ける可能性もある身分なのだ。なので、シャーミルといえども他の生徒とは違い、マナの行動を制限することはできなかった。
「そうだな。分かった。だが、くれぐれも無理はするな」
それが分かっているシャーミルは、渋々ではあるがマナの単独行動を容認した。
洞窟の前に来たのは、カルネ、バドルス、シャーミルの他、ミレイ、シシーもいた。マナについて行ったのはヘータとデミだけだった。ミレイはデミとマナが行動を共にすることを心配していたが、マナが人数を増やしたくないと言ったのでこのようになったのだ。
「では、入ってみますわ」
「待て、中にガスが溜まっているかもしれない」
カルネが中に入ろうとすると、後ろからバドルスが止めた。が、カルネは動じることなく歩みを進めた。
「その辺は確認済みですわ」
「<発現>」
ミレイが魔法陣を描いた棒きれに魔法を掛けると、棒の先端が明るく光った。これが松明代わりだ。こういうものを作るのは、生産職のミレイには造作もないことだった。




