第1章「ベルデグリ」 - 01
「ギッギッギッ」
その場所には不気味な音が響いていた。普通の人間なら一生聞くことがなくとも不思議のない音ではあったが、この場に集まった人々には聞きなれた音だった。
「両者、前へ」
審判の言葉を合図に、1人の少年と1人の少女が中央に作られた正方形の舞台へと上がる。少年に少し遅れて先ほどの不気味な音を発する生き物もそこに上がった。
ここはクプーティマ王国でも最高峰と名高いトルニリキア魔法学園。この地で、未来の魔法エリートを目指す少年少女が日々切磋琢磨しているのだ。
今、この闘技場に上った2人もそんな少年少女の2人。どちらも中等部2年に在籍する魔法使いの雛だ。
「マナッ、今日こそはそのやる気の感じられないすました顔を屈辱に歪ませてやろう」
そのうち、やたらと闘志をみなぎらせて相手を睨みつけている少年がバドルス=ディグ=ラマーツァ。クプーティマ王国の名門軍人家系の次男で学年総合2位の成績を誇る将来有望な魔法使いだ。
そして、先ほどから響いている不気味な声を発する生き物はバドルスの使い魔であり、彼を守るように少年と少女の間に立ちふさがっている。
この使い魔こそ、ラマーツァ家が名門として受け入れられている理由である。この生き物はゼオウィルムと呼ばれる陸上生活を行うドラゴンの一種であり、ラマーツァ家はこのゼオウィルムの扱いに長けたドラゴンマスターの家系なのだ。
「はぁ、面倒くさいな。話はいいからさっさと終わらせようよ」
対する少女は先ほどから妙にやる気がない。気だるい雰囲気を漂わせる彼女の名はマナ=プラー=クージャ。こう見えても学年はおろか学園全体を見てもトップクラスの実力を持つと考えられている天才魔法使いだ。
ただ、それと同時に、彼女はいまだその実力を十全に引き出してはいないと考えられていた。その理由は、彼女の独特の戦い方にあった。
マナは体の正面で結んでいた紐をさらりと解いて、背中に担いでいた長剣を片手で構えた。長さは130cmほどだが、中等部2年のマナが持つととても大きく見えた。
「君はどこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだ」
「だって、そっちはウィルムが使い魔なんだから、武器くらいないとバランスが悪いでしょ」
「人間のリーチでウィルムに剣が当たるわけがないだろうがっ」
「そんなの、やってみないと分からないよ」
バドルスは苦々しそうにマナを睨みつけているが、彼女の方はどこ吹く風だ。剣をくるくる回して遊んでいる。
「両者、私語を慎むように。これより、マナ=プラー=クージャとバドルス=ディグ=ラマーツァの試合を開始する。始めっ」
審判が合図をすると同時に、バドルスが叫んだ。
「オロン、ブレス!」
マスターの声に反応して、オロンと呼ばれた使い魔のウィルムが少女に向かってゼオウィルムの特技である高温のブレスを吹き付けようとして、その動きを止めた。
さっきまで目の前にいたはずの目標の少女の姿がいなくなっていたからだ。