7. 繋がらない糸
「なんでも聞いていいよ?……って言っても、まだ混乱してるって顔だね」
瀧川くんと私は、階段に座った。端正な顏がやや近めな距離にあり、ちょっとドギマギした。
「ずっと思ってたんだけど、……昨日眠れてないね?無理もないけど」
私、そんなにひどい顔をしてるのかな?瀧川くんの手が私の頬に触れる。ひんやりして、きもちいい。思わず目を細めた。
「そんな顔しないでよ。無防備すぎる」
「……?」
瀧川くんは困った顔をして苦笑した。やがてするり、と頬から手が離れた。
「そうだ、一つだけいい?」
「何?」
私は瀧川くんに言わければいけないことがある。
「………昨日は助けてくれてありがとう」
「………」
お礼は大事だ。
「今言うことじゃ、ないとおもうけどなぁ。ふふ、どういたしまして」
瀧川くんは呆れながらも笑った。いつも教室で見せない顏に、どきり、とした。
「行村さんは、オカルト系って信じる?」
不意に瀧川くんが問いかけた。何か昨日のことと関係があるのだろうか?
「うーん、微妙かな」
実を言うと、怖い系の話は超苦手です。何も対処できないモノって怖くない?無理矢理いないっていつも暗示をかけてたよ!!昨日のことがあって、それも崩れそうだけど。
「そう。昨日のアレはね、人の怨念や執念が獣の死骸に取り憑いて形になったモノだよ」
「……へぇ」
よく分からなかったけど、頷いて見せた。
「分からなかったら聞いてね?」
「………はい」
彼にはバレていたようだ。
まぁいっか。そう言って瀧川くんは話を続けた。
「それで、何故昨日僕がそんなモノを倒せたかっていうと、」
瀧川くんは、とんでもない爆弾発言をしてくれた。
「前世で僕は神様だったからだよ」
「ごめんちょっと意味がわからない」
何言っちゃってるの!?非現実すぎるよ!!瀧川くんもゲームのやりすぎなの!?神様って、中学生じゃあるまいし!
「ここで止まると、いつまで経っても進まないから話を進めるね」
「無視!!?」
今さっき分からないこと聞いてって言ったよね!?瀧川くんは、なかなか我が道を行くタイプだった。
「あ、でもその前に、逃げられても困るから携帯の番号を教えて?」
瀧川くんはにっこり笑った。それはもう、綺麗に。………嫌な予感しかしなかった。
「明日教室で、みんなの前で告白してあげようか?」
「教えてくださいお願いします」
悪魔の囁きに、私はすぐ降参した。無事(?)に携帯の番号を交換し終えた後、瀧川くんが語ったのはこんな話だった。
とある場所に、村があった。その村はさして大きくなかったが、繁栄していた。
……ある、神様を祀っていたから。
ある日、神社に迷いこんだ子供がいた。
神様は子供の姿になりすまして、その子供の迎えが来るまで気まぐれに遊んであげることにした。
思いの他、神様はその子供をたいそう気に入った。そして思ったのだ。
そうだ、この子供を婿にしよう と—─
「………ツッコミ所満載なんだけど、その神様って—─」
「女の神様だよ」
神様は、その子供が育つまで遊び相手として成長を見守っていた。お前は将来私の婿になるのだと聞かせながら。
「ちゃんと頷いてたよ?」
「でもそれ子供の言うことだよね?」
幼い子供を自分好みに育てた後に娶るって話、あったよね!!性別逆だけど。
そして子供が青年になった頃、あるお告げを出した。青年を花婿として差し出せと—─
青年は、村の有力者の跡取りだった。しかも他に兄弟もおらず、大騒ぎになり揉めにもめた。
「…それ、どうなったの?」
「逃げた」
瀧川くんは無表情だった。
村は別の娘を生贄として捧げようとした。ところが、青年とその娘は知り合いだったらしく、手をとり合って村から逃げたのだった—─。
「もう分かったと思うけどその神様が僕で、花婿は———君だ」
えええええー!!いや、無理ありすぎるでしょ!
「そんな話、信じられるわけないじゃない!」
「そう?事実なんだけどなぁー。」
それじゃあ、
「神楽木と六条さんに聞いてみると良い」
え?
瀧川くんは一つ笑みを零した。
「ちーちゃんと蓮、に?」
「そう。彼らも知っているはずさ」
じゃないと、あんなにガードが固いわけないからね。瀧川くんはそう苦々しげに呟いた。
「まぁいいさ。こうして君と接触できたし」
そして彼は私の手を恭しく取った。
「今度は何があっても逃しはしない。──わが花婿殿」
瀧川くんはそう言って、目を細めうっそりとわらった。
私の手の甲に、瀧川くんの唇の熱が広がる。彼のひんやりした手とは裏腹にとても熱かった。
「──!?」
私は瀧川くんから目一杯距離を取り、そのまま全速力で階段を駆け下りた。私の頭は処理能力がオーバーしていた。ななななななな、何、今の!?
「………今日は許してあげる。今日は、ね」
瀧川くんが楽しそうに呟いていたのを、私は知らない。
ちーちゃん、蓮。瀧川くんの言っていることは本当なの?
真実を確かめるために、私を待っている千尋の下へ向かった。
胸が高鳴りが大きくて、心臓がもちそうにない。瀧川くんの唇の熱がなかなか消えなかった。