31.文化祭前の波乱
ついに夏休みも終わってしまった。
この落胆は学生の人たちなら分かっていただけるだろう。また憂鬱な学校が始まる。学校が始まってから最初の方って夏休みボケとかあってダラダラするしやる気出ないよね?もうやってられないわーって感じ。でも、そんなこと言ってられないくらいの壮絶なバトルがクラスで勃発していた。
「劇のほうがいいよ!文化祭当日は劇の時間以外縛られることないし!!」
「えー。せっかくならカフェとかのほうがよくない?」
「絶対劇!」
「カフェ!!」
上がる声はみんな女子の声で、男子は女子の勢いに飲まれて発言出来ていない。それは賢い選択だった。今何か発言しようものなら集中砲火を浴びるだろうから。現在クラスでは何をやっているのか?──そう、文化祭での出し物を何にするかの議論である。
ここ雪丘学園は、文化祭にかなり力を入れており近隣の高校では追随を許さない。外部からもたくさんの来客が押し寄せ、かなりの賑わいになるのである。準備だって新学期が始まってからすぐに取りかかり、放課後も夜遅くまで文化祭に向けて作業することも少なくないのだ。
そんな一大イベントなのだが、私たちのクラスの意見は劇かカフェかで分かれている。両者とも一歩も許さないのは、瀧川くんの存在が大きい。つまり、
『劇をして瀧川くんの王子姿が見たい派』と『カフェで瀧川くんの執事姿を見たい人』で分かれているのだ。
劇派は瀧川くんの相手役を狙っている積極的な子、カフェ派は激化する瀧川くんの相手役をするメリットよりも話すチャンスが多いほうがいい堅実な子で大体分かれている。クラスの力関係で強引に決まらないのは、権力者の一人である華やかな女子を率いる橋本さんが劇派、真面目かつスペック高い系女子を率いる委員長松本さんがカフェ派と真っ二つに分かれているからだ。この出し物の行方に注目しているのは私だけではないに違いない。意見の通った方が曖昧だった女子トップの決着点ともいえるのだから。
「劇は苦手な子とかもいるじゃん!!役決めも絶対揉めるし!」
「カフェとか他のクラスと変わらなくない?揉めるのはカフェだって一緒でしょ!!」
「ステージ上がるのが嫌なら小道具とか準備に回ればいいのに」
「カフェのほうがみんな平等だし」
両者一歩も譲らず埒が明かない。議論はヒートアップするばかりだ。私とちーちゃんや穏健派の一部の女子と男子は口を挟む場もない。この話し合いはどうなるのかと行く末を見守るばかりだ。
「これ,どうなるんだろうね。まとまるの難しそう」
「そうだな。まとまった後も大変そうだな」
「だよねぇ」
蓮とこそこそ話をする。どっちかの意見が通ったとして、通らなかったほうのグループが素直に協力するとは限らない。分裂する未来が見える。
「隣のクラスはどうなったのかな?」
「隣?生駒のクラスか。確か……」
隣のクラスはこまくんがいる。こまくんだってイケメンで有名だ。彼のクラスも私たちのクラスみたいに揉めたりしなかったのだろうか。
「なんとか出し物はまとまったらしい。劇をするんだってさ。でも生駒はステージに上がりたがらなくて、説得に苦労しているらしい」
「はぁ、なるほど……」
生駒くんが表に立って何かする、ってイメージが浮かばない。そういうのは苦手そうだ。断固拒否しそう。
「大変だね」
「だな」
「じゃあ隣のクラスと合同とかできたらいいよねー。劇したい人は劇でカフェしたい人はカフェで分かれるとか」
「おー、それいいな」
「ステージ上がりたくない生駒くんがカフェして、瀧川くんが劇するみたいな。文化祭は2日間あるしなんとかできそうじゃない?」
「まぁ、それが通ればいいけどな」
「あははは」
思いついたことを蓮と話していただけだった。どうせ蚊帳の外だしおしゃべりしてもいいやと気を抜いていたから、いつの間にかクラスが静かになっていたことに気づくのが遅れた。
「行村さん……」
「ま、松本さん!!ごめん、クラスの話し合い中に勝手におしゃべりしてっ」
いつの間にか近くに来ていたクラス委員の松本さんに慌てて謝る。どうしよう、目をつけられてクラスの女子に村八分とかにされたら……。ひぃぃぃぃ!私はぎゅっと目をつぶって判決を待つことしかできなかった。肩をがしっと掴まれる。
「それ、いいアイデアね!!」
「2クラス合同でするなら、どっちもできるよね」
「隣のクラスに掛け合ってみるわ」
「え、えええ!?」
適当に話してただけだよ?できるのかな大丈夫?さっきまでの衝突が嘘のようにあっけなくまとまった。
その後、隣のクラスに話したら、大賛成だったらしい。とりあえずうちのクラスと隣のクラスで劇とカフェをすることになった。出し物は決まったけれど、決めることはまだまだ山積みだ。波乱はまだまだ続く。




