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わたしの嫁は神様でした  作者: 真咲 透子
5. 幼馴染との夏
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24. ガールズトーク

「お世話になりました」


 瀧川くんに家まで送ってもらった。…………そう、リムジンでな。

こんな平凡な住宅街になんてもんに送り届けられているのかって感じはする。でも彼は送ると言って聞かなかったのだ。今日の朝、微妙な雰囲気になったのだが、そんなのすでに微塵みじんも感じさせなかった。


「ううん、このくらい全然いいよ」

「すごく楽しかった。本当にありがとう」

「こちらこそ」

「お兄様、ありがとうございました」

「隼人くん、またね」


 リムジンは音を立てずにすいーっと動きだして行った。ねぇ、最後のやりとり何なの?


「隼人、肝試しの夜何があったの?」

「……………………べつに」

「何その間」

「うるさいな。プライバシーの侵害だよ、姉弟だからってなんでも言わなきゃいけないって訳じゃないんだから」

「むむむ」

「じゃあ、姉さんとお兄様の関係は?」

「ぐっ!!!!」


 痛いところを突かれた。隼人、策士だな。自分が答えられないからってそれを逆手に取るとは。我が弟と思えない。そうしてあの日の夜、隼人と瀧川くんに何が起こったのかはうやむやになってしまった。




「絢音。今日から放課後は私の家で宿題をするわよ」

「へっ!?」


 中休みは終わって、学校で課外が再開された。もちろん午前中で終わる。今日の課外が終わり、帰って何のゲームをしよっかなーっとテンション上がっていたのに。なんてこと言い出すんだ、ちーちゃん。


「どうして?」

「言ったでしょう。……あいつの別荘に行くときの条件」


『夏休み最後の3日間、絢音が私に付き合ってくれるならいいわ』ってやつ?それは全然いいんだけど、それがどうして宿題につながるのか全く分からない。


「宿題のせいで無理です、なんて事態を起こさないためよ」

「……へぇー」


 ちーちゃんは私を何だと思っているんだ。私は小学生なの?夏休み最後の日に「宿題終わらなーい」なんて泣きついたこと一度もないし、この課外だって主にするのは夏休みの宿題の解説だった。今だってコツコツやっている。


「英語するわよ」

「…………」


 千尋にはお見通しだった。唯一まだ私が手をつけていない教科がある。お察しの通り──英語だ。

 以前も語ったと思うが、私は日本に永住するつもりでいるので英語なんて激しくいらない。許容範囲はカタカナまでだ。


「その様子だと課外以外の英語は手をつけていないわね」


 ちーちゃんの千里眼、怖い。なんでそんなに私のことわかるの?


「絢音の顔に書かれているからよ」


 え、今私一言もしゃべってないよね?何で会話できてんの!?


「そうと決まれば行くわよ」


 私は千尋に引きずられながら教室を出た。ずるずるずるずる。



 千尋の家は、大きなお屋敷だ。


 とても高い門をくぐると、さらに道がある。まだドアのドも見えない。そんな中を千尋のお迎えの車で進む。しばらく竹林の中を進むと、やっと建物が見えた。


「着きました」


 いつも車の運転をする中村さんがそう告げると、車を降りて私たちのいる後頭部座席のドアを開けた。


「どうぞ」


 その流れるような手はずに私はいつも感嘆する。千尋はさっと降りた。……さすがお嬢様だなぁ。


「絢音、行くわよ」

「あ、うん」


 千尋の家──お屋敷は、和風な造りをしていた。石造りの道を歩くと玄関が見える。「おじゃまします」と中へ入っていくと、見事な木彫りの熊が迎えてくれる。……小学生の頃はこれ、怖かったんだよなぁー。くわっとしたいかにも野生、って表情が。昔の思い出に浸りながら、千尋の後をついていくと、渡り廊下を歩くと底から見える立派な庭。大きな池にはこいが優雅に泳いでいる。その上でカコン、とししおどしが涼しげな音を立てた。


「相変わらずすごいね」

「そうでもないわよ」


 千尋は気にした風もなく歩いていく。しばらくすると、千尋の部屋にたどり着いた。千尋の部屋も和風なテイストで整えられていた。洗練された調度品が少しと必要最低限の家具。窓からはあの立派な庭が見える。まさに──深窓の令嬢の部屋という感じだ。


「準備してくるから、そこで待ってて」

「あ、うん」


 私はぼうっと庭を眺めながら千尋を待った。私じゃ様にならないが、この部屋でたたずみ、静かにもの思いにふけるちーちゃん──うん、すごく絵になるな。一度やってくれないだろうか。……やってくれないだろうな。


「お待たせ」

「ううん」


 千尋は淡い紫のワンピースを着ていた。前一緒にショッピングに行ったときに勧めたやつだ。


「そのワンピース……」

「あぁ、あのときのよ」

「えへへへへ」

「絢音、だらしないわよ」


 千尋にぴしゃり、と言われた。


「さぁ、始めるわよ」

「えーもうするのー?」

「何のためにここに来たと思ってるの?」

「もうちょっとゆっくりしてからとか…………いや、やろうか。今すぐしよう、うん!!」


 世の中、逆らわないほうがいいことって、たくさんあるよね?



「本当に、課外でした所以外は真っ白なのね」

「……はい」

「いつも同じこと繰り返しているじゃない。後で苦労するのは絢音なのに」


 返す言葉もございません。勉強会は粛々(しゅくしゅく)と行われ、千尋のスパルタな声と私のうなだれた声が交互に飛び交った。



 これ以上は頭が沸騰してしまう、そんなときに、千尋は見かねたのだろうか。


「……今日はここまでにするわ」


 鶴の一声がかかった。


「──!」

「続きはまた明日」

「──!!」

「そんなあからさまな顔、しなくていいじゃない」


 千尋は少しすねた顔をした。


「ちーちゃんと一緒にいれることは嬉しいよ?でもね、英語が私はにくいんだ──!」

「…………」


 千尋は呆れた顔でため息をついた。こいつもうだめだ、っていう目をしている。私は千尋の気が変わらないうちにぱぱっと教材をカバンに片づけた。



 勉強が終わればおしゃべりの時間だ。他愛ないことをとりとめもなく話した。……主に私が。千尋は相槌をうちながら、時々2、3言コメントする。


「恋人にするならどんなタイプがいい?」

「何よ急に」


前にもちょっと話をしたけど、いい機会だ。恋愛に興味なさそうなちーちゃんでも、好みくらいあるはずだ。


「ちーちゃんと恋バナ?」

「…………」


 あちゃー。この顔はだめかな?あきらめかけたそのとき、千尋は重い口を開いた。


「いつも胡散臭うさんくさい笑顔じゃない、上辺だけの優しさを振りまかない、私の絢音にちょっかい出さない人」

「…………」


 それ、特定の人物を指してるよね?


 今度は私が黙る番だった。


「あー。そっか、じゃあ、うちの隼人とかどう?」

「隼人くん?」


 お姉ちゃんは隼人を推薦するよ!!……いやいや、お礼はいいって。しょーがないなぁ、そこまで言うならモンブランでいいよ。脳内の弟と会話をする。


「隼人くんなら私じゃなくても素敵な女の子がいるわよ」

「ちーちゃん以上に素敵な女の子を探すのも難しいと思うけどね」

「隼人くんは絢音の弟だけど、私にとっても弟のように思っているわ」


 ……隼人、頑張れ。


「ちーちゃんが隼人と結婚とかしたら、私とちーちゃんは家族になるよね。私、ちーちゃんのお姉ちゃんになっちゃう」

「絢音が私の養女になればすべて収まるわ」

「何が!?」


 千尋はさらりと言ったが、養女か。その発想はなかった。


「もしくは絢音と蓮が結婚するか」

「蓮?うーん。蓮は蓮だからなー」


 前に冗談で『蓮を嫁にする』なんて言ったけど、実際恋愛対象として見ることができるかって言われるとそうではなかった。蓮は『蓮』というカテゴリーの中に分類される。私の中でこれが動くことはなかった。


「いつかはみんな、それぞれに好きな人とかできるのかなぁ」

「…………」


 いつも3人で一緒にいた。でも、学年が上がるにつれて環境が変わり、だんだん3人だけでいることは難しくなった。時間が経つにつれて、思っていることもきっと変わる。いづれはみんなバラバラになっちゃうのかな。今は想像できないけど、それはとても──つらい。


「何があったって、私は絢音の傍にいるわ」

「ちーちゃん……」


 千尋は私の手をぎゅっとにぎった。細くて白い、美しい手だ。私の不安が千尋に見つかってしまったのだろうか。


「蓮だって傍にいる。だから、大丈夫よ。たとえ別々になったとしても、きっとまた絢音のところに戻ってくるわ」


 現世いまみたいにね。



 千尋は綺麗に笑った。……なんだか、気恥ずかしいや。私も千尋みたいに綺麗ではなかったけど、つられて笑った。




「たとえ恋人ができても、絢音の傍にいる」

「そこは恋人の傍にいてあげようよ」

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