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23. 星のきらめきと海のさざめき

「いっちゃったね……」

「あぁ」


 私と生駒くんははづきちゃんとあっくんが駆けて行った夜空を見上げた。


「成仏、できたのかな?」

「おそらくな」


 よかったぁ。一安心だ。はづきちゃんはもう、こんな暗い所で一人泣かずに済む。──となりに彼がいるから。


「こまくん、ありがとう。こまくんがいなかったら2人とも仲たがいしたままだったよ」


 最初、帰っていいなんて彼に偉そうなことを言ったが、私一人だったらきっとこんなにうまくはいかなかっただろう。


「しかも2回も助けてくれたし……。本当に大丈夫?どこかけがしてない?」

「別に……。お前に何かあったら碧が悲しむからな」


 彼はぶっきらぼうにそう言った。素直じゃないなぁ。


「それより、肝試しの途中だったよな?さっさと終わらせて帰らないと碧とあの女がうるさいぞ」

「……そうだね」


 私と生駒くんはもと来た道を歩きはじめた。



 雲が無くなったことで、星明りや月のあかりで気持ち程度に辺りは明るくなったように感じた。こまくんと一緒にいることも苦にならなくなったことやはづきちゃんたちのことが終わって気分が晴れたからかもしれない。


「そうだ、これどうしよう……」


 はづきちゃんからもらったかみ飾りを見つめた。かみ飾りは、桜の花をモチーフに作られた古風なものだった。


「もらっておけよ。返すあてもないだろ」

「そうだけど……」

「あいつの願いは達成できたんだから、いいんじゃないのか?」


 このかみ飾りをつけてあっくんに想いを告げる──それがはづきちゃんの願いだった。

彼女は私の想い人にも想いがつたわるといいと、このかみ飾りを渡した。私の想い人っていっても……。



『行村さん』


 脳裏で瀧川くんの声がした。


(…………いや、落ち着け落ち着け。なんで彼が出てくるんだ!関係ない、関係ないって!!……やだ私なんでこんなにドキドキしてるんだろう)


「おい何百面相してるんだ?」

「はうっ」


 変な声が出た。そういえば生駒くんが隣にいるんだった。こんなイケメンが隣にいるのに無視ってだめじゃないか私!もっと堪能たんのう(?)しろよ私!!

 

 これは保留!保留にしよう。うん、それがいい。


「こまくんはイケメンだね」

「あぁ?」


 生駒くんは私の方を向いて怪訝けげんそうな顔をした。「なんだその笑顔。気持ちわりぃ」なんて暴言を吐かれたけど、私はさらに笑顔を深くした。そうしたら彼はなぜか私から少し距離をとった。


(そういえば、このかみ飾りって旅の人が好きな人に想いが届くようにってがんかけしていたものって言ってたよね?ていうことは、本当は旅の人の想い人に渡すつもりだったのではないかな)


 旅の人はその後、どうしたんだろう──


 答えはどこにもない問いだった。



「かみ飾りをとった後、追いかけっこになってそのまま2人、この崖に落ちたみたいだ」

「……」

「ここは急に崖になってたりする所があるからな。ガキをつかんだときにそう『見えた』」


 蓮の言っていたほこらに着いたとき、生駒くんはぽつりと話した。


「この祠は、そいつらの魂をしずめる為のものだな」


 ……そうだったんだ。悲しさがだんだんと私の胸を包み込んだ。今は2人楽しく笑いあってほしい。空の上で──

 祠には、線香花火が入った小さな袋が2つ置いてあった。目印とはこれだろう。祠に花火。場違いすぎる。蓮ってたしか神社の孫だったよね?たたられるぞ。


「これでやっと帰れるな」

「うん。なんか、長かったね」

「お前がそれ言うなよ……まぁ、いいけど」


 線香花火を一つとった。海が近いので波の静かな音がよく聞こえる。


ザッザッザッザッ────


 突然波の音以外の音が混じった。



「絢音!!」


 この声はまさか……。


「ちーちゃ」

「絢音!無事だった!?ずっと帰ってこないんだもの、心配したのよ」


 千尋だった。彼女は私に思いっきり抱き付いた。ぎゅーぎゅーされてすこし苦しい。後ろから蓮と隼人、そして瀧川くんも来ていた。


「……狛犬。絢音をどこに連れまわしていたの?」


 千尋はおどろおどろしい声で生駒くんに声をかけた。うん、ちーちゃん怖い。彼はきっと怯えているだろうな。千尋の腕の中にいる私には彼の姿は見えないが。生駒くんの弁護をしなきゃいけない。こんなに遅くなったのは私のせいだ。だが、千尋の腕は力がさらにこもり、私は息がしづらくなる。ち、窒息ちっそくしそう。


「答えなさい、祓うわよ」

「む、むぐぐ」

「千尋ー。絢音が苦しそうだぞ。とりあえず離してやったらどうだ」


 鶴の一声ならぬ蓮の一声により、私の意識はこの世に留まることができた。さぁ、深呼吸。すーはーすーはー。


「まぁ、見つかったんだからいいだろ。2人ともけがとかしたかんじでもないし」

「うん。むしろ遅くなったのは、私が原因なの。心配かけてごめんね」

「…………」


 私は千尋をじっと見つめる。しばらくそのまま千尋と見つめ合っていたが、やがて千尋は溜息ためいきをつくと


「……絢音がそういうなら」


 千尋は仕方ないという風に目を伏せながらそう言った。追及は逃れられたようだ。もうひとつの線香花火を回収して、みんなで帰ることになった。


「心配したよ。何かあったんじゃないかと思った。行村さんたちが無事でよかった」

「うん、ごめんね」

「絢音が無事ならいいわ」

「六条さん、相変わらずだね」


 …………。ちーちゃん、露骨ろこつすぎだよ。瀧川くんと千尋の言い争いが始まった。そして生駒くんが巻き込まれてあわあわなっているのをぼーっと見ていた。


「そういえば、その手に持っているもの何?姉さんそんなの持っていたっけ」

「あぁこれ……」


 隼人は私の手の中にあるかみ飾りを指さして質問した。


「もらったんだ」


 隼人に見せると、


「誰に?もしかして物でつられた?知らない人についていっちゃダメだって小学生でも分かることでしょ。姉さんは小学生以下なの?バカなの?」

「…………」


 隼人の手厳しい回答が待っていた。今あったことを隼人に言っても信じてくれるかどうか分からない。説明しようにもどうしようもないので、必死に誤魔化そうとした。



「そのかみ飾り……」


 だから、蓮がそのかみ飾りを凝視しているのを私は気づかなかった。知っているのは星々だけ。



 楽しい時間ほど、あっという間に過ぎるものだ。海で遊んだり、花火をしたり、みんなでバーベキューをしたり……。肝試し後は平和に日々が過ぎていった。今日はもう帰る日だ。


 今は早朝、私は海にいた。砂浜近くにある丸太に腰かけ、を待っていた。

月が、青い。海の蒼さとはまた違った儚げは青さだった。波は穏やかにゆらめいていた。


「──行村さん」


 瀧川くんが私に声をかけた。私の隣に彼は腰かけた。


「こんな朝早くに呼んじゃってごめんね」

「いいよ。気にしないで」


 昨日私は、事前に彼と朝落ち合う約束をしていた。朝じゃないと2人きりで話す時間がないからだ。人には聞かれたくなかった。


「行村さんが僕を呼び出すなんてめずらしいよね。どうしたの?」

「……伝えたいことがあって」


 私は考えていたのだ。これまでのことと、そしてこれからのこと。


『碧が真剣しんけんだって分かっているんだろ?いつまでそうしているつもりなんだ?』


 この前の生駒くんの言葉だ。

この言葉を聞いた瞬間、息が止まった。それは──図星だったからだ。


「このままじゃいけないって思って。瀧川くんが私に対してその……真剣だっていうことは分かってたから」

「…………」


 私なんかに瀧川くんのような人が執着しゅうちゃくしているなんて、本当は正直いまだに信じられない。でも──逃げ続けているのはもう、やめた。


「瀧川くんのこと、よく考えてみた。でも考えれば考えるほどわかんなくなってきちゃった。……前世のこととかね」


 私はさらに言葉を続ける。


「瀧川くんと私は釣り合ってないと思う。客観的に見ても、『思い』一つをとっても。……それでも瀧川くんの気持は変わらない?」

「あたり前だよ。そんなの関係ない」

「……そっか」


 瀧川くんは即答だった。私は一度目を閉じる。



「自分勝手かもしれないけど────待っていて欲しい」


 これが、私の出した答えだ。


「え……」

「今の私はまだ、余裕がないみたい。まだ頭の中がこんがらがってる。瀧川くんと出会って3カ月だし……でも、返事は絶対にする。──1年以内に」

 

 待っていてほしい、なんてずるい言い回しかもしれない。でも、リミットはつけた。返事をすると言い切った。私にとって一番誠意ある答えだった。


「だから──」

「…………いよ」


 瀧川くんが小さな声で言った。


「無理しなくていいよ」

「でも……」

「そんな『返事』、いらない」


 思わず瀧川くんを見た。彼はうつむいており、表情は見えなかった。



「行村さんがどんな『返事』を持ってきたって、僕の『答え』は変わらないから」


 彼はそう言い切ると、「そろそろ六条さんたちに気づかれるかもしれない、帰ろう」と私の手を引いて別荘への道を戻る。


(瀧川くん…………)



 初めて会ったときよりも、距離は近いのに。今日が一番、彼との距離が遠いと感じた。

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