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20. アンバランスな2人(上)

「じゃぁ、浜辺で花火でもしようか」

「ちょっと待て」


 瀧川くんは、良い笑顔でそう言った。蓮がツッコミを入れる。


「俺らが終わってないだろ」

「する必要があるの?誰も怖がるやつなんていないでしょ。なんで行村さんと颯が2人きりにならなきゃいけないの?」

「横暴だな!」


 私もあまり行きたくないけどな~。相手は私に手厳しい生駒くんだし。でもやめるのもなんだかなぁ。言いだしっぺは蓮だけど、私が乗り気だったからみんなを巻き込んだわけだし。


「何のためにくじ引きしたんだよ」

「隼人くんと仲良くなれたし、僕はもういいと思うけどね。ね?隼人くん」

「はい、お兄様」


 瀧川くんと隼人には本当に何があったのだろうか。お姉ちゃんは心配だ。千尋はそんな隼人のそばで頑張って洗脳(?)を解こうとしている。ちーちゃんにかまわれてよかったね。これはこれでよかったのか……?いや、ダメか。あとでお姉ちゃんともゆっくり話そうか。


「ルールはルールだろ。ほら、絢音、生駒。早く出発しろー」

「う、うん」

「……」


 私と生駒くんは蓮から半ば追い出される形で別荘を出た。



 暗い夜道を懐中電灯で照らしながら歩く。

辺りに電灯でんとうなんてない。空はくもっており、隣の生駒くんがぎりぎり見えるくらいで本当に真っ暗だった。お昼に通った道だったが、夜になると最早もはや、別世界のようだった。夜風はどことなく生暖かく、それが不気味さと雰囲気を増していた。


「うわっ」

「……」


 風のせいだろうか、木の葉が足にひっついて思わず声を上げてしまった。び、びっくりしたぁ~。何もないって分かっていてもちょっと怖い。

 沈黙が流れ続ける。私と生駒くんの間に会話などない。怖いだとかとても言える空気ではなかった。彼は早足なのか、私との距離が徐々に離れていく。た、頼む!置いていかないで!!色々耐えきれなくなって、私は彼に話しかけた。


「生駒くん、もうちょっとゆっくり歩いてほしいなー……なんて」

「あ?」


 生駒くんがめんどくさそうに振り返った。うわぁ、超不機嫌そう。しかし、そんな顔も様になっているので、イケメンはさすがだ。


「お前トロすぎだろ。……なんで俺がお前と一緒にこんなことしなくちゃいけないんだ」


 生駒くんはぶつぶつとなにかを言っていた。歩調はすこしゆっくりになったので、少しは考慮してくれたようだ。よく考えたらさ、すごい状況だよね。学園で有名なイケメンの別荘にお邪魔して、一緒に遊んで。そして今はもう一人の学園でも1、2を争うほどのイケメンと2人っきりで肝試し。……うわぁ。学園の女子にばれたら間違いなく集団で放課後、校舎裏コースですね!!

 生駒くんと接点がなかった頃だったら「イケメンと2人っきり!やったぁ!!」とかはしゃいでいたかもしれない。だけど今は、


「──俺はお前のことを認めたわけではないからな」


 私のことを敵視しているのですごく困っている。うーん。


「そう言われても、私はどうしようもないんだけどなぁ……」


 どちらかというと、瀧川くんが私に何かとからんでくるので、そちらを何とかしてほしい。


「瀧川くんに言ったら?……それかちーちゃん」

「ななななななんであの女の名前をだすんだ!」

「……」


 生駒くんってちーちゃんの名前に過剰反応かじょうはんのうするよね。いつもクールなかんじの生駒くんが、ものすごく慌てるのでギャップの差にいつも驚く。これがいわゆる『ギャップ萌え』というものなのか?(おそらく違う)


「碧に何度言っても聞かねぇんだよ」

「でも瀧川くんが私に近づいてくるし……」

「それだよ」

「……?」


「お前、そうやって逃げているだけじゃないか。碧のことへらへら笑って受け流して……マジ腹立つ」

「え、」

「碧が真剣しんけんだって分かっているんだろ?いつまでそうしているつもりなんだ?」

「……」


 言葉に詰まった。生駒くんの言うことは正論だ。初めて助けてくれたとき、踊場で前世の話をしてくれたとき、そして──遊園地の観覧車のなかで。

 瀧川くんが私に真摯しんしに向き合っているっていうことは分かっていた。それに対して瀧川くんは私に何かを求めたことは一度も、ない。彼は優しい。だから、ただ与えられるだけの曖昧あいまいな──そんな関係に私は甘んじていたのだ。何かと理由をつけて。


 私は瀧川くんのことを、本当はどう思っているのだろうか?今のままでは彼にあまりにも失礼ではないのか?


「私は──」


 応えなければならない。まだ『答え』が見つかっていなくても──。

私が言葉を発したとき、


「おい」


 生駒くんが立ち止まり、鋭い目で辺りを見回す。しゃべるな、という合図を私にする。急にどうしたんだろう?彼がじっと見つめる先で、私は驚きの声をあげそうになった。


「──!」


 口元を両手で押さえて必死に隠す。遠くにあったもの、それは──ひとだまだった。青白くゆらゆら揺れながら、どこかをさまよっている。私たちはしばらくひとだまの動向を息を殺してじっと見ていた。


「……あっちに行ったな。今のうちに先に進むぞ」

「……」

「どうした?」


 生駒くんは私に小声で話しかけた。私は今もなお、ひとだまを見続けていた。ぴくりとも動かずに見ている様に、彼は怪訝けげんな顔をした。


 目が離せなかった。おぼろげに、儚く光る──ひとだまに。


 まるで、迷子のように頼りないその光に、私は胸が締め付けられた。……行かないと。

ひとつの思いが胸の中に現れ、その存在を主張し始める。私は次の瞬間、思わず走り出していた。


「おい!」


 生駒くんが私を止めるようにあせった声を出した。でも私は止まらない。早く、早く追いつかないと──それだけが私の頭の中を占めていた。

 茂みをかきわけて道なき道を通る。むき出しになっていた腕と脚が傷だらけになった。それでも無我夢中で追いかける。


 ひとだまを追ってしばらく走ると、開けた場所にたどり着いた。


「お前何なんだよ。急に走りだして、危ないだろうが!」


 すぐに生駒くんも私に追いついた。私と違って息ひとつ切れていない。


「ひとだま追いかけるとか、無謀すぎ──!」


 彼も気づいたようだ。生駒くんが目を見開く。そこにいたのは、顔を両手でおおいながら泣いている、ちいさな女の子だった。

まだ続きます。

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