19. 思惑いっぱいの肝試し
生駒くんが屍になった後、別荘に戻ることになった。
「楽しかったね(途中まで)」
「そうだな」
瀧川くんの別荘は海まで片道15分程度だ。その間の道は雑木林となっており、日光を遮ってくれていた。
「今何時くらいかな」
「4時は過ぎてるかもな」
「お夕飯までに生駒くん、回復していたらいいね」
「………そうだな」
まだぐったりしている生駒くんを見て、ひそひそと蓮と話し合う。
「行村さん、けがとかしてない?」
「まだ痛かったりしないかしら」
……主犯2人は私の心配よりも彼の心配をした方ほうがいいと思う。
別荘に戻ると、部屋の中にあったシャワーをお借りして、千尋と交代で入った。
客室にシャワー付きとか半端ないな、ここ!さっぱりした後、一休みしていたらノックをする音が聞こえた。
「はーい」
ドアを開けると蓮と隼人がいた。
「夕飯だってさ」
「わかった。ちーちゃん、行こう」
「えぇ」
みんなで一階に降りていくと、たくさんのご馳走がテーブルいっぱいに並んでいた。
「はりきっちゃって、作り過ぎちゃったわ。たんと召し上がってください」
「ありがとうございます!」
ハウスキーパーの田中さんが、ほほほと笑う。
「いただきます!!」
田中さんの料理はどれも絶品だった。ほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。
「すっごくおいしいです!」
「あらあら、おだてても何もでませんよ」
あ、このコロッケすごいサクサク。みんなおいしいなぁ。はぁー幸せ。幸福感に浸っていた私を、現実に戻す輩がいた。
「姉さんも、人並みに料理できるようにならないとね」
「……隼人」
「行村さんって料理苦手なの?」
「壊滅的なんです」
「何故きみが答える」
やろうと思えばできるもん!いつか、きっと。おそらく。……たぶん。台所に入れてくれないだけだもん!!
「神楽木は料理上手だよね」
「瀧川もな」
「颯もこう見えて、料理は結構凝ったもの作るんだよ」
「こう見えてってなんだよ」
へーへーへーへー。料理男子ってやつですか。女子力高いですね。自慢ですか?
「六条さんはどうなの?」
「「「………………」」」
瞬間、この場の時が止まった。私は黙秘権を行使します。──さわらぬ神に祟りなし。
夕食後、しばらくリビングで寛いでいたのだが、隼人がとんでもない一言を発した。
「なぁ、今から肝試しないか?」
き、肝試し!?
「海に行く途中で祠があっただろ。昼間、そこに目印になるもの置いてきたから。2人組になって取ってくる形で」
「蓮、あなた何してるのよ……」
「いいだろ、親睦を深めるチャンスだろ」
私は正直ご遠慮願いたい。ご存じのとおり、私はホラー系が苦手だ。外灯もないこの夜道を歩くのはちょっとどころかかなり勇気がいる。
「親睦を深めるチャンス……」
隼人がそっと呟いた。…ははぁ、なるほど。ちーちゃんと2人きりになれるチャンスだもんね。嫌だけど、ものすごい嫌だけど、すっごく嫌だけど!!お姉ちゃんがひと肌ぬいでやろうじゃないか!!
「いいね!賛成!!」
「お、絢音」
「……絢音がしたいのなら」
やった、ちーちゃんクリア!
「行村さん、大丈夫?」
瀧川くんが心配そうに聞いてきた。……奴は以前私の惨劇を知っている。
「だ、大丈夫だよ!全然楽しそうだし!!」
「ふぅん…まぁ、行村さんがそういうのならいいけど」
何とかなったか…?
「颯はもちろん参加だよね?」
「………あぁ」
笑顔の瀧川くんの声で、生駒くんの強制参加が決まった。彼の意見なんてなにもなかった。「僕も参加します」と隼人も言ったので、肝試しは決行されることになった。
「じゃあ、くじでも作るか」
「僕が作るよ」
「あなたが作るくじなんて、私嫌よ。……なにしてるか分かったもんじゃないわ。私が作る」
「僕も六条さんの作るくじは嫌だなぁ」
「らちが明かない。生駒、くじ作ってくれるか」
「あぁ」
瀧川くんと千尋が、一触即発な雰囲気になったので、蓮が生駒くんにくじ作りを頼んだ。
「颯、分かってるよね…?」
「狛犬、不本意な結果になったらただじゃ置かないから」
「おーい。そこ、目の前で八百長はやめてくれなー」
生駒くんをすごんでいる2人に、蓮が注意をする。彼はまだ肝試しをしていないのに顔が真っ青だった。はて。今思ったんだけど……
これ、地雷ペアができたらやばくないか?
千尋と生駒くんは何やら因縁があるみたいだし、瀧川くんと千尋は……目も当てられない。
嫌なドキドキの中、くじ引きが始まった。頼む、問題が起きないでくれ!!来い、私のくじ運!!
気になる、くじ引きの結果は───
蓮と千尋。瀧川くんと隼人。私と──生駒くん。
最悪は免れたが……私のペアは生駒くんか。これはこれで地雷だな。隼人、残念だったね。お姉ちゃんも悲しい。
「颯、このくじとお前のくじ、交換しようよ」
「狛犬、そのくじをよこしなさい」
「そこ、ペア成立後の明らかな不正はやめてくださーい」
再び凄んでくる瀧川くんと千尋に、ひぃっと生駒くんは後ずさりした。蓮が間に入る。……生駒くん、なんかごめん。
「最初は──瀧川と隼人か」
「くじに一番って書かれていたしね。──隼人くん、行こうか」
「……はい」
最後に不安そうな顔で隼人がこちらを見てきた。……気持ちはわかるが。
ペアが瀧川くんだから、何かあってもきっと対処してくれるに違いない。まぁ、大丈夫だろう。──そう思っていたのだが。
30分後。
ドアが開く音がした。良かった、無事何もなかったみたい。
「帰ってきたみたいだな」
瀧川くんと隼人がリビングに入ってきた。
「楽しかったね、隼人くん」
「はい、お兄様」
「──!?」
全然無事じゃなかった。ちょっ、隼人今なんて言った!?
そこには、何やら親しげに話す瀧川くんと震えている隼人の姿があった。
隼人、瀧川くん
この短時間で何があった。




