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わたしの嫁は神様でした  作者: 真咲 透子
3. 夏休み編
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14. お出かけ後のお約束

 それは、電車に乗る前に何気なく見た携帯だった。


「あれ、電話きてる……!?」

「……?行村さん、どうしたの?……わぁ」


 そこには、おびたたしい着信とメール履歴の山だった。着信53件、メール96件。送り主の名前を見た瞬間、今までの気持ちがすべて吹っ飛んでしまった。誰がやったかなんて、それはもちろん


「鬼電だ。僕、初めてみた。六条さんも過保護だね」

「はは、は……」


 実は私、初めてではないんですよねー。……じゃなくて。


 なんでちーちゃんからこんなに電話がきてるんだ!?どこでばれたんだ!?……隼人か?千尋からの電話の履歴の間に、隼人の名前もあった。おのれ隼人!あいついいやがったな!?今かけ直すべきか。……正直電話したくない。怖いから。途方に暮れていると、私たちが乗るべき電車が来てしまった。


「電車がきちゃったから、あとでかけなよ」

「……うん」


 とあるメール文には、『絢音の家で隼人くんと帰りを待っているから』と書いてあった。私の家で待ち構えているのだろう、逃げ場はもうない。帰り道が地獄への道のりと変わった。




「送っていくよ、行村さんの家はどこらへん?」

「いや、大丈夫だよ……まだ明るいし」


 申し出はありがたかったのだが、新たな修羅場は生み出したくない。確実に何か起こる。


「確かにまだ日が暮れていないけど、やっぱり危ないよ。……この前みたいなことがあったら大変だし」


 瀧川くんが最後低い声で言った。……そういわれると、断りづらくなる。


「でも、」

「気にしないで。少しでも、行村さんと長く一緒にいたいだけだから」

「………」


 彼は最後、悪戯っぽく笑った。普段だったらときめいたかもしれないが、これからのことに予想がついていた私にはそんな余裕などない。


 結局、瀧川くんに送ってもらうことになった。


 家にたどり着くまであと数100メートル。大惨事まであと目前。


「楽しかったね行村さん」などと話しかけてくる瀧川くんに、私は上の空で返事をしていた。もう何も頭に入らない。


そして、



「…………おかえり、絢音」

「…………………ただいま」


 家の前で仁王立ちした千尋と、その後ろで心配そうに立っている隼人の姿があった。「壺は買っていないみたいだね……よかった」って呟き、お姉ちゃんに聞こえていますよー。なんで壺なんだよ隼人。お願いだから、別の心配をしてくれ。


「───やっぱり瀧川 碧と一緒にいたのね」

「やぁ、六条さん」


 千尋が瀧川くんを絶対零度の目で睨んでいる。対して瀧川くんはにっこり笑っており、飄々としている。その温度差が端から見てものすごく怖かった。


「あの人、姉さんの彼氏?」


 いつの間に私の傍に来ていた隼人が小声で話しかけてきた。


「……違う」

「じゃあ、なんで2人でなんか出かけてたの?しかもあんなイケメン」

「………お姉ちゃんにもいろいろ事情があるんだよ」

「遊ばれてない?」

「失礼な奴だな君は。私に対してだけでなく、瀧川くんにも失礼だよ」

「う~ん。不可解だな。姉さんなんか相手にしなくてももっとさ……」

「言いたいことはわかるけど、黙ろうか」


 ……弟よ、それは何でもぶっちゃけすぎだ。姉を軽んじすぎです。

隼人の疑問は私が一番痛感しているものだ。でも、弟にその関係性を話す訳にはいかない。私は別の質問をした。


「なんでちーちゃんに言ったの?」

「昼ぐらいに、『胸騒ぎがする、絢音は家にいる?』って電話が来たんだよ。だから朝のことを話したんだ。そのあと家に来て、『絢音の居場所がわからないわ!!あの男の仕業ね!?』って……」


 居場所が分からないって……逆に何で今までちーちゃん私の場所が分かっていたんだろう。もし今日わかんなかったとしたら、瀧川くんが何かしたのかな?……したんだろうな。


「絢音も絢音よ。何でこんな男となんか一緒にいるのよ」

「へっ!?」

「こんな男、なんて……ご挨拶だね、六条さん」


 静かな火花が飛び散る。「嫁と姑の会話みたいだね、姉さん」とか、小声でそんなこと言わなくていいから!!そんな感想、求めてない。


 と、とにかく、ここは私が何とか場を収めねば!!


「わかった、今度はみんなで行こう!」

「嫌よ、何で私が」

「2人で出かけるごとに六条さんたちがついてくるの?……僕もちょっと頷けないなぁ」


 雰囲気がさらに悪化した。逆効果だったようだ。言い争いは更に続く。


「とにかく!……絢音を二度と連れまわさないで!!」

「六条さんに言われる筋合いないと思うけどな。親友だからってやりすぎじゃない?」

「………あなたはいつか絶対絢音を傷つける」


 間をおいて、千尋は感情を押し殺した声で言った。


「あのときみたいに」


「………」


 さっきまでの言い争いが、嘘のように静まり返った。瀧川くんの表情も一瞬で変わってしまった。



「……傷つけたのは君たちのほうじゃないか」


 彼は、無表情でそう言った。あたりに冷たい水をはりつめたような緊張感が走る。


 前世のことを言っているのだろうか?あいにく私は前世の記憶なんかひと欠片もないので、何の事だかさっぱりなのだが。瀧川くんは首を横に振り、溜息をつくと、もとの表情に戻った。



「───今日はもう帰るよ。行村さん、今日は楽しかったよ。ありがとう。また学校でね」

「……うん。またね」

「………」


 彼は夕暮れの中を帰っていった。しばらくその後ろ姿を眺めていたのだが



「……それで、絢音?どういうことか説明してくれる?」

「はは、は……」


 確実にまだ怒っている千尋に、苦笑いしかできなかった。いきさつを教えろって?もとはといえばゲームを瀧川くんに見つかってしまったことですが、何か?………ちーちゃんにんなこと言えるか!!絶対今以上に怒る。新作ゲーム賭けてもいい。


「じゃあ僕は部屋に戻りますね」と隼人はそそくさとその場を去っていった。隼人の薄情者!!一人にしないで!!


 

 空に星が出るまでもうすぐかかるが、私への追及はまだまだ終わらないようだ。ながーい夜になりそうだ。

夏休み編第一弾、終了です。

次回から第二弾が始まります。

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