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わたしの嫁は神様でした  作者: 真咲 透子
3. 夏休み編
14/32

11. 夏のお誘い

 セミの鳴く声が聞こえる。

まだ日差しは強くなく、気持ちのいい朝だった。晴れ渡った空はどこまでも青い。私は気だるげに見渡した。この青空が今は憎い……!!


 夏休み初日の朝だった。





「夏休みの課外、どうする?」


 昼休み。お弁当を食べながら聞いた。

メンバーは千尋に蓮、瀧川くん。そしてなんと……生駒くんだ。生駒くんは、スポーツ大会の後から、時々お昼に加わるようになった。ちなみに、今日のお弁当は瀧川くんのお手製だ。


 美人が3人もいる!っていう喜びよりも、いつか袋叩きにあう!ていう恐怖のほうが勝った。


「とりあえず、数学と英語だな」


 蓮は答えた。

うちの学園は、1年生の課外は選択制だ。生徒たちの自主性に任せている。苦手教科だけとる生徒もいれば、課外なんて取らずに夏休みを満喫する生徒もいた。


「英語は絶対とりなさいよ、絢音」

「えぇーーー」

「……忘れたとは言わせないわよ?一昨年のこと」

「………」

「え?何かあったの?」


 瀧川くんが聞いてきた。


「中2のとき、夏休み中ずっと遊びまくってて成績がガタ落ちしてさ。それで絢音のママさんに成績が戻るまでは学校以外の外出とゲーム禁止にされたんだよ」


 そう、あれは辛かった。遊びに行けないのもつらかったが、ゲームができないってところがもう……!!いっそひと思いに一刺しして欲しかった。成績戻るまで3カ月かかった。


「バカだなお前」

「うるさいわよ、狛犬」

「………」


 心底見下したような目で見てきた生駒くんだったが、隣で千尋が一睨みで顔を青くしながら震えた。……ちーちゃんまじ最強。


「瀧川はどうするんだ?」

「僕も何か課外とろうかな」

「え?とるの??」


 瀧川くんは頭いい。この前の期末はトップだった。とらなくても大丈夫じゃないかな?その学力で課外をとるなんて酔狂な。私だったら絶対取らないけどね!!



「課外とったら夏休みでも行村さんに会えるしね」


 にっこり。


 瀧川くんが綺麗に微笑んだ。思いがけない発言に、私の頬は徐々に赤く染まる。


「………」

「絢音。課外とるのやめて、私と勉強しましょう?」

「行村さん課外とらないの?じゃあ僕が勉強教えてあげる」

「黙りなさい、祓われたいの?」

「君じゃ無理だよ。……何なら試してみる?」


 千尋と瀧川くんが一触即発な雰囲気になった。ねぇまじ誰か止めて!!


「絢音、大人しく課外とれ。まだマシだ」

「………うん」


 蓮の助言に素直に頷くことにした。どうマシかは分からなかったけど。



 課外の紙を早く出さなくちゃ……!あれから数日後。

どうしても英語だけは取りたくない私と、どうしても英語だけは必要だという千尋の攻防は激しく行われた。……え?結果ですか?私がちーちゃんに勝てるとでも?


 惨敗でしたよ。


 それでも英語だけは受けたくなくて、いやいやしていたら、


「今年の夏は遊びにいかずに私と英語の勉強か、課外とるのとはどっちがいい?」


 ゲームも禁止ね。


……私は泣く泣く後者を選択した。


 正直、英語とか必要なくない?別に海外に行きたいとも思わないし。なんで英語を教科科目に入れたんだ?だれだ入れたやつ。でてこい。一生日本で暮らす予定の私には、英語のよさなど分からなかった。もういらなくない?


 課外受付の紙を放課後まで出さなかったら、千尋に「いいかげんにしなさい」と怒る一歩手前まできたので、慌てて職員室まで走って行った。



「絢音ちゃん!探したよ!!」

「春ちゃん?」


 職員室に行く途中で春ちゃんに出会った。頬が上気している。


「教室に行ってもいなかったんだもん。これ、新作のゲーム!!貸してあげる!」

「……?ありがとう?」


 春ちゃんが、袋に包んだゲームを渡してきた。ブツの交換みたいだった。なにやら興奮気味だが、そんなに良いゲームだったのだろうか。


「頑張って進めてね!そして一緒に語ろうね!!」

「うん、分かった。これどんなゲームなの?」

「プレイしてからのお楽しみ!」


 そんな話をしていると、


「……行村さん?」


 なぜ君がそこにいる!!話しかけてきたのは瀧川くんだった。


「さっき職員室に行ったんだけど、先生が課外予定表どうするのかって聞いてたよ」

「そ、そうなんだ。いま出しに行くとこなんだ」

「そっか。よかった」


 ……隣にいる春ちゃんの視線が痛い。どうしてそんな仲がいいのって顔してる。

お願いだから、そんなキラキラした目で私を見るのやめて!!瀧川くんは、そんな状態の春ちゃんを一目見て、


「こんにちは」


 にっこり笑って挨拶をした。



「————っ!!そういうことだから!絢音ちゃん、また今度ね!!」

「ちょ、ちょっと春ちゃん!?」


 頼む、置いていかないで……!私の願いはむなしく散った。


「それはそうと、行村さん」


 瀧川くんは私のほうを向くと、唐突にこう言った。


「夏休み初日、空いてない?遊びにいこうよ」

「…え」


 それはまさか


「…蓮たちは?」


 とりあえず私は予防線を張った。


「デートのお誘いなんだけど」


 彼はきっぱり言った。さ、さいですか~。


 どうしよう……。正直瀧川くんと2人っきりになるのは避けたい。…今もだけど。休みの日まで一緒にいるところを見られたらどうなる?確実にアウトじゃないか!言い訳なんか通用しない。しかも今春ちゃんからもらったゲームもある。……正直忙しくなるだろう。


「あの、瀧川く「行村さん」…」


 私が断ろうと声を発したとき、絶妙なタイミングで瀧川くんが名前を呼んだ。



「その手に持っているものは何?」

「………」


 はい、アウトー。


「僕に見せて?」

「大丈夫!遊びにいこう!!」

「そう、良かった。……一緒に職員室に行かなくてよさそうだね。」


 先生に暴露するってことですか?職員室で?ゲームを??


 普通の有名なバトルゲームとかならまだいい。でも春ちゃんの好きなゲームは乙女ゲームだ。ゲームを持ってきたときの彼女のはしゃぎ具合をみても、十中八九中身はそう見てとれる。


 公開処刑か。


 私は白旗を振った。瀧川くんは、また連絡すると言って去ってしまった。




 そして当日がやってきましたー。台風でも来て約束が流れないかなぁと思っていたが、そうもいかず。いい天気だった。頭を抱えたくなった。


「……何着ていこう」


 服が決まらない。あの瀧川くんの隣に立つのだ。どの服を着れば正解なのか分からない。クローゼットの中をぶちまけてみても、なかなか組み合わせが思いつかなかった。


「聞いてみようか」


 私は隣の部屋へ向かった。



「隼人ーちょっと来てー」

「……姉さん、ノックくらいして」


 うっとおしそうに私を見ていたが、無視をして手を取った。


「ちょ、何するの。僕今勉強してるんだけど」

「少しくらいいいでしょ。姉のピンチなんだよ」


 無理やりに私の部屋に連れてきた。


 この嫌そうな顔をしているのは、弟の隼人だ。隼人は私と2つ違いで、同じ学園に通っているが私よりもはるかに頭が良い。しかもハイスペック。…なんでだろう。同じ遺伝子を受け継いでいるはずなのに。解せぬ。



「何でこんなに散らかってるの。片づけなよ、仮にも女だろ」

「だって服が決まらないんだもん!」

「はぁ?遊びに行くだけでしょ」

「そうだけど!」


 隼人は怪訝な顔をしている。めんどくさそうだったが、


「これとこれ」


 服を選んでくれた。隼人はセンスがいい。これで大丈夫なはず!


「ありがとー隼人!」

「こんなしょうもないことに、僕を呼ばないでくれる?どうせ蓮さんと千尋さんと遊びにいくんでしょ。いつものことじゃん」

「………」

「え?違うの?」


 隼人は意外そうな顔をした。


「誰?まさか彼氏?……んなわけないか。姉さんだし」


 し、失礼な!まぁ、瀧川くんは彼氏じゃない。……花婿認定されていますが。


「………」

「僕、服選んであげたよね?知る権利くらいあると思うけど」

「……………………デートに行く」


 誰にも知られたくなかったが、そう言われたら言わない訳にはいかない。


「はぁ!?本気で言って—」

「はいもう行って!!私、着替えるから!!!」


 無理やり追い出した。…これ以上追及されたくない。早く家を出よう。



「姉さんがデート?ありえない!……千尋さんに報告したほうがいいのかなぁ」



 扉の向こうで弟がそう呟いていたのを、私は知らない。

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