8. 親友たちの告白
ガラガラガラ———
教室の扉を開けた。
「……遅かったわね」
「絢音、お帰り」
教室には、千尋と蓮がいた。蓮はいつも放課後は部活の助っ人をしていないのに。どうしたんだろう。
「うん。ごめんなさい」
「それで?なにがあったか説明してもらうわよ」
「いいよ。私も、聞きたいことがある」
真っ直ぐ千尋たちを見つめて言った。
ザアァァァァァァァァァ———
雨の音が教室内に静かに響く。
「……絢音?」
千尋は怪訝そうな顔をした。私は意を決して話した。
「瀧川くんから、さっき信じられない話を聞いたんだけど、ちーちゃん達は何か知ってる?」
私の思いがけない質問に、千尋と蓮は目を見張った。
「あと、今朝ちーちゃん達に嘘ついた。ごめん。……ブレスレット、実は持ってきてるんだ」
昨日ハンカチで包んだ、糸が切れてしまったブレスレットをそっと差し出した。
「ブレスレットが、切れてるわ!!」
「おい、大丈夫だったのか!?」
2人は今までに見たことないほど狼狽していた。千尋がブレスレットを持っている私の両手を包み込む。
「うん、私は大丈夫だったよ」
「本当に!?無事でいられるはずないじゃない!!!だってあの日は、」
「瀧川くんが、助けてくれたから」
「!!!」
……やっぱり何か知ってるんだね。ちーちゃん、蓮。
包み込んでくれた手がヒクり、と強ばった。
私は、昨日ブレスレットが切れた後狼みたいな獣に襲われたこと、絶対絶命のとき瀧川くんが助けてくれたことを話した。
「全然大丈夫じゃないじゃない!!」
「……ごめん」
「それで、どうなったんだ?」
怒る千尋とは対照的に、蓮は冷静だった。
「その後、気を失って目が覚めたら保健室だった」
「………」
そして、今日の朝会ったときに放課後の呼び出しをされたこと、瀧川くんから聞いたことを話した。
脅されて携帯番号を教えたことや最後に瀧川くんから指にキスされたことは言ってないよ!!言ったらそれどころじゃなくなりそうだしね!!……………主にちーちゃんが。
「………………」
教室に沈黙が流れる。
話してくれるだろうか、私の胸には不安が広がっていった。
「もう黙っているのは無理があるみたいだな」
沈黙を破ったのは蓮だった。
「………でも」
「諦めろ、千尋。おそらくもう俺たちだけでは守れない」
千尋は何か言いたそうだったが、蓮は開き直ったようだ。そして、真面目な顔をして私に向き合った。
「話すよ、絢音。………大事な話だからしっかり聞いて欲しい——」
蓮が話し始めたのは、瀧川くんが話してくれた後の話だった。
———花婿へとお告げが出た青年と、生贄に差し出そうとした娘が村から逃げた後。
神様はたいそうお怒りになり、村の守り神から祟り神に変わってしまった。
「それはもう、ひどかったらしいぞ」
田畑は荒らされる。野犬や獣が山に多数現れ被害が出る。子どもは神隠しにあい頻繁にいなくなる。酷い病が村で流行する……。
酷い有様だった。
「最初はどうにか神様の怒りを沈めようとした。でも、これはもうだめだ、と思った村人たちは村で一番力を持った巫女になんとかしてもらえるよう頼みこんだ」
藁をも縋りたい思いだった。
巫女は言った。
「怒りを沈めることは出来ないが、神様をなんとかする方法はある、と。……神様をもといた神の世界に送り還すことならできると」
そうすれば、原因となる元がいなくなる。だがしかし、守り神が消え、村に庇護がなくなるということも意味していた。
腹に背は変えられない。
巫女は神様を神の国へ送り還し、村には平穏が戻ったのだった———。
「ちなみにその巫女が千尋な」
「え!?」
なんですと!?さすがちーちゃん!!!……て、いやいやいや
「そして俺が、」
ポンッ
「一緒に逃げた娘だ。……あのときは世話になったな」
蓮が私の肩に手を置いた。話が急展開すぎて、訳わかんないんだけどっ!!
頭がついていかない。そんな私の様子に蓮は苦笑しながら言った。
「いきなりこんなこと言われても、わかんないよな。前世の話なんて、現実的ではないし。気持ちは分かる。——でも一つだけ言わせてくれ」
蓮は今以上に真剣な顔をした。
「俺や千尋や……絢音は、前世で一緒だったけど、だからと言ってそれを理由に親友になろうとした訳じゃない」
「………」
「俺と絢音は親同士が仲良かったから幼馴染になったし、千尋だって偶々入学したこの学園で知り合っただけだ。」
「うん」
「だから絢音、きちんと”いま”を見て欲しい。絢音の今の気持ちを大切にして欲しい。……前世がどうとかじゃなくてな」
「………うん」
前世のこととかは、まだちょっと分からないけど、蓮は蓮だし、ちーちゃんはちーちゃんだ。
だから———
「何があったとしても、ちーちゃんと蓮は親友だよ」
「—ッ絢音っ」
千尋が私に抱きついてくる。
大丈夫だよ、ちーちゃん。
私は千尋の背中に腕を回し、ポンポンっとやさしくたたいた。蓮は、そんな私たちをやさしく見守ってくれた。
蓮は知っていたのだろうか。私は後に、連の言葉を深く思い返すことになることを———。
「……大丈夫みたいだね」
教室前の壁に背中を向けて、碧が呟いた。
「そろそろ僕も、本気をだそうかな」
なんとかまとまりました。
まだちょっと前世系続きます←




