2-20
「むちゃくちゃ惚れられてるね」LCが云った。
「そうかな」
「めっちゃ恥ずかしい。なに? わたしの身体を好きにして? 変態」
ムッとした。「盗み聞きは健全か?」しまった。機嫌を損ねたらまた一方的に切られる。こちらからは接触の術がない。
「おっぱい大きいんだ。良かったね」
「うん、まぁ、普通だよ」
「違うでしょ!?」LCは憤然とし、「触って、だよ!? 自信なきゃ云わない!」
「そう……かな」なんで僕は怒られているのだ。
「変態」
「あのね、LC。僕たちは、まぁ大人でね、そう云うことは、コミュニケーションのひとつなんだ」
「なによ、年上ぶって」
「君が思うほど、大人なんて立派なものじゃない」
ふうん、と見下すような音を投げてきた。「バカみたい」
駆け引きなんて、徒労だと感じた。
だから、「ねぇ、LC」
「なに?」
「君は何がしたいんだ? 何が目的なんだ?」
沈黙。
しくったか、と思った沈黙の後、LCは云った。「大人のエッチな事、教えて」
面食らった。「君に僕が?」
「違う」言外に軽蔑したよな響きがあった。「おにーさんと、おにーさんの彼女」
「それはどう云う──、」
「今度のデート、あたしも行く」
「デートってのは二人でするからデートなんだ」
「ふーん」
「君からの着信があっても、僕は受けない」
「そうなの?」
無理だ。障壁が役に立たないのは実証済みだ。
LCは分かっていて挑発している。けれども、僕は譲らなかった。
「後日、どうだったかを話すのなら構わない」
「そう」LCは云った。「分かった」
意外や、少女は簡単に引き下がった。
「怒った?」一応、訊ねてみた。
するとLCは、アハ、と笑った。「怒った? そう云うことをわざわざ訊くって」アハハハ。「デリカシーないって云われない?」
「さぁね」子供にからかわれるのは、あまり気分の良いものでない。人に笑われるのも好きじゃない。
「ま、いいや」LCは云った。「またね、おにーさん」
「うん、」
通信を切りかけ、「あ、そうだ」遮られた。「お腹の下の方が痛いのに、なんだか気持ち良いって、なに?」
インプラントしたマグは、非接触ながらも脳と繋がっている。
言語野。言葉を司る。だから僕らは、声に出さずに通話できる。
「おにーさんが、おにーさんの彼女の事を考えると、変な気分になっちゃう」
不思議だね、とLCは云った。「だって、わたしのそこって何もないもん」
扁桃体は、脳のもっともっと奥にある。
「おにーさんのエッチ」
アハハ。
笑い声が頭の中で跳ね返る。
アハハハ。アハハハハ。