2-1
しあわせの食卓
どんなに強く求めても、ふたつはひとつに成りえない。
*
火炎放射器を欲しいと云うご婦人を説得してお引き取り頂いただけで午前中が潰れた。
「おつかれーしょん」
カウンターの裏に引っ込むと、お客さんの注文を取りまとめていたハコ姐が云った。「売ってあげても良かったんじゃ?」あんなに熱心だったもの。
僕は首を振って、「ナガモノって危ないですよ」
そうかなー、と彼女は並べ終えた注文書をとんとんとカウンターの上で揃え、「チェーンソーも捨てがたいわ」あたしもひとつ欲しいなぁ。「強そうだし」
「どっちもダメです」と僕。
「なんで?」とハコ姐。
「姐さん、」
改めて呼びかけると、ん? と彼女は振り返る。「なぁに?」
「それです」
「なになに?」どう云うこと?
「後ろから呼ばれて振り返ったとき、ナガモノの先ってどっち向いてます?」
一拍の後、あ、とハコ姐は自分の口元に手を宛てた。「こりゃヤバいわ」
「それもヤバい」
僕が指さすと、「わわわっ」とまるで自分の手が燃えたかのように慌てて顔から放し、ぶんぶん振り廻し、「ふぃー」と息を盛大に吐いた。「ヤバいわ」
「それにですね」僕は云った。「サプライ品の調達問題もあるんです」
「んんん?」
「消耗品。燃料とか、それにメンテナンスも」
「あー」そっかそっか。「大変だ」
ハコ姐は揃えた注文書をそれぞれの外注先のボックスに入れながら、「結局、なにがオススメなのかなぁ」
「〝ミスター・スコップ〟ですね」
なにそれ。「ウチにあったっけ?」
「ありますよ」入荷は少ないけれども。
ヘイズ・ホームセンター、ビーガーデン店の規模と云ったら、金物店に毛が生えた程度。そこへ行けば、家一軒建つと云われるキグチワンダフルと比ぶべくもない。品揃えしかり、店舗面積しかり、店員数しかり、教育しかり、待遇しかり。給与はどっこいかもしれない。いや、そんなことはないかな。福利厚生? 何それ美味しいの?