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しばらくコージが消えた先を見つめたままウィリアムは動かないでいた。
お互い様。自分も同じドブの中をざぶざぶ首まで漬かっている、ネズミの仲間。
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バールならぬロッドの仕入れは自分でした。
加工屋の知り合いがいる。飲んだくれだが、その腕は今のところ信用できる。一年後は分からない。
寸法を伝え、仕上がりの日程を教えて貰い、見積りの一割を前金で渡し、仕上がった後、残りを払った。前金は五割だと加工屋は云ったが、出来上がった物がアルコールに浸されていてはたまらない。それに後金の使い道は決まっているから、仕上がりも早くなる。
以前、ウィリアムはコージからトンファーを譲り受けたことがある。「あんたには特にいい得物だと思うぜ」なかなかの出物だぜ?
すぐに折れた。すぐにコージのケツに刺しに向かった。
尻を丸出しでコージは泣きながら云った。「あんたの力加減が規格外なんだよ」
ケツにはタバスコで許してやった。ヒィヒィ泣いて喜んでた。
後日、やり過ぎたと思い、ロバートの隠していた菓子を持って行った。
「もしかしたら俺も、ババつかまされたかもしれない」
ドーナツ型クッションに座っていたコージは、菓子を受け取り、殊勝にも自分の非を認めた。
その件は、それで終わった。
だが、今回のような高額取り引きとなると、ババでは済まされない。
結局のところ、ヤツは高みの見物人で、こっちが身体を張るのだから。
*
突き刺すような赤い光が闇を切り裂き、木々の影を浮かばせる。
ディフェンサーだ。
骨格をむき出したような金属製のひょろ長い姿は、昆虫めいた脚の先に取り付けられたローラーで、整備不十分のうねる路面の上を巧みに滑る。肩には、クリア成型のプラスチックの盾を左右それぞれに備えており、今にも飛び立とうかと、まるで翼のようにそびやかしている。
ピヨーン、ピヨーン。
「夜間の外出は危険ですのでお控えくだださい」
ピヨーン、ピヨーン。
警報の合間に、女の機械音声が警告を発する。
「外出許可証未携帯者は強制保護します」