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Calling down an angel  作者: yonexer
ケザイア
8/21

07

 見ごたえのある打席だった。特等席から見ていた川嶋は感心する。ガックリと肩を落とす民本に、ナイススイング、上を向け、と激励してやりたくなる。それができなかったのは自分が女、それも未経験者であるということに遠慮を感じていたからではない。川嶋も受け入れがたい現実と直面していたからだ。

 しかし認めなければならない。自分の分析は甘かった、間違っていた。たった2イニング分の動画で岩原を丸裸にした気分になっていた自分を恥じる。偉ぶって、余計な忠告をしなくて良かった。本当に良かった。


 川嶋は岩原の高速スライダーというやつは低めのストライクからボールへ落とす、オーソドックスな使い方だけだと思っていた。とんでもない誤解だ。民本への初球、真ん中から低めに落としてカウントを稼いだ。ストライクからストライクへの変化球は想像するよりずっと難しい。当初、コマンドのミスだろうと判断した。もうちょっと浮いていればどうなるかわからなかったぞ、運もある投手なんだな。

 それが、残像を残したまま簡単に二つ目のストライクをとり、三、四球目に完璧にスライダーを投げきったあたりで誤解に気付いた。コマンドミスは三球目真ん中低めがインローにいった、その一球だけ。それにしたって、高さは間違えていない。おそらく初球のスライダーは狙って投げたボールだ。

 動画ではそんな投球をしていなかったから本当に驚いた。あのあと習得したのか、それともたまたま投げなかったのは定かではないが、スライダーをカウント球としても使えるというのは大きな誤算だ。

 そんな相手に民本は善戦した。ポニーリーグで硬式を経験しているだけのことはある。一球目の空振りでビビって手が出なくなるかと心配したが、最後のスイングは迷いを微塵も感じさせない見事なものだったし、逆に焦ってなんでもかんでも手を出すかとも危惧したが二、三、四球目をしっかり見逃した。作戦を忘れず、甘い球だけを狙っていたのだろう。


 そこへ来てもう一つの誤算である。岩原は球威に頼ったピッチングをせず、コマンドを生かした投手であると川嶋は評した。実際、ツーツーまでは実に技巧的な組み立てである。まるでゲームのように鮮やかだった。こうも思惑通り進むとピッチャーのみならずキャッチャーも楽しいだろう。

 しかし五球目、岩原は自慢のコマンドを投げ捨て、威力でねじ伏せにかかった。腕の振りからして違う。今までとは異質の鋭い振りから放たれたボールはゾーンのはるか上方へ行くクソボールだ。その高さを警戒していた民本に振らせるのは容易なことではない。スピードもさることながら、ノビ、というやつが凄まじいのだろう。おそらく民本は真ん中と判断したはずだが、実際には胸から肩の辺りを通過。良いスピンがかかっているはずだ。

 地球には重力があるためどのような真っ直ぐでも僅かに落ちる。落ちが少ないボールを伸びる、と感じるそうだ。メジャーのpitchf/xでも、名だたるフォーシームピッチャーは落下量の少ないボールを投げている。岩原も同じように落ちないボールを、打者からすれば浮き上がってくるボールを投げているのではないか。

 このべらぼうに伸びるボールを自在に投げわけるととんでもないことになる。ワンバウンドと思ったボールが低めいっぱいストライクになるのだ。打てるわけがない。レベルの違う話だが、落ちないフォーシームはメジャーリーガーだって手を焼く。

 ただ川嶋は、そこまで自由自在には操れないのではないかと思った。このボールを三つストライクへ投げるだけで抑えられるのに、そうしなかった所から類推しただけなのだが、これは的を得ていた。さらに言うなら、以前川嶋が弱点ではないかと穿った部分は、まさしく岩原のアキレス腱である。



 誰か岩原を打てるのか。あるいは弱点をつくことができるのか。うちひしがれた様子の民本の次に打席に入るのは、坂の上中学野球部主将、浅見裕二であった。

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