03
後半の川嶋の演説は蛇足です。読み飛ばしちゃってください。改行もしていないし、内容は雑多だし、ようするにツボにハマっちゃった人のはなしって、聞いている側からすると右から左だよねっていうのを表したかったんです。
でも書いてるうちに楽しくなっちゃって、無駄に頑張ってしまった所なので暇で仕方ない人、生理学が好きな人、生物選択の受験生で必須アミノ酸だのコドン表でアミノ酸でペプチドにしてたんぱく質だのって一体何だろうと悩んでいる人、もしよかったら目を通してみてください。
江崎グリコ社のHP、筑波大学生化学教室の征矢教授の発表を参考にしました。興味を持った方はそちらもあわせて参照下さい。
内容の誤りについては作者の不勉強、不見識によるものです。 もし間違いを見つけたならば教えて下さると幸いです。
要は激怒した。しかし邪智暴虐な王などおらず、失礼極まりない要の一方的八つ当たりであるため、走ること叶わず 、暖かくして寝た。
決戦前日にいきなり速球が打てるようにはならない。だが内部生がくれた情報は有力であり、あの後、要が一人裏切りにうちひしがれているなか、図書室で現実的な対策が練られた。結果としてヘルメットを深めにかぶり、つばで消える高さのボール球を振らないようにすること。低めのボールはスライダーである可能性が高いので見逃すこと。ベルト付近のボールを逃さずスイングすること、を確認しあった。相手に余計なストライクを与えず、甘いゾーンで勝負させる目論見だ。速球派に対しての基本的かつ古典的な方法だが、確かな効果があるから手垢がつくくらいに多用される。
そして速球派であることを考えて肩が温まる前に捉えようという結論が下された。硬式経験者の民本、中学野球部で主将の浅見、スタメンだった鈴木、そして瀬戸山という順番で打席に入る運びとなる。
当日、要はお気楽だった。中学でベンチレベルの要によもや地区突破の好投手は打てまい。それより打席でエースと対戦出来る喜びで頭がいっぱいだった。
実は要は北海道へ来る前、シニアにいった野球エリートの元チームメイトとお別れのキャッチボールをしていた。彼のボールは球質からして違う。風を切り裂く甲高い音を響かせ手元で伸び上がりグラブに飛び込んでくる、恐ろしいボールだった。
あんなボールを打席から見たらどんな感じなのか。見たこともない世界が広がっているに違いない。
要はどこまでもお気楽だった。ノープレッシャーの強み。浅見は中々鋭い事を言う。
昼休みである。野球部一年の紅一点、川嶋さんに話しかけられた。
「こんにちわ。瀬戸山君」
「こんにちわ、川嶋さん」
要は気後れしながら返事をした。先日は気付かなかったが、よくよく見ると川嶋さんは顔立ちが整っていた。美人であり、好みの顔立ちだ。心なしか周囲の視線が集まっている気がする。なぜ気付かなかったのか激しく後悔した。ノートパソコンを覗き込んだときにはかなり顔を近づけたはずだ!このような形でも浮かれ心に足下をすくわれるなんて!
「今日は頑張って下さいね。差し入れです」
見ると、川嶋さんはスクイズボトルを差し出した。サッカー選手やバレー選手が試合中水分補給するときに使っているプラスチックの水筒みたいなものである。おずおずと受けとる要。
「まずは練習の30分前に飲んで下さいね、味はどえらいことになっているからイッキだよ!部活中の水分補給に使えなくもないけど、味はひどいですからね」
一方的に捲し立てると、川嶋さんは握りこぶしを作って笑ってみせる。要はなんと返したら良いものか浚巡。ああ、ともううともつかず呻いた後、空いた手で同じようにガッツポーズし、ぎこちなく笑ってお礼を言った。
川嶋さんは満足したようで笑顔を素敵に顔の端まで深めて、それじゃあと踵を返した。
要はもうちょっとお話したいと思った。美人なのに屈託なくコロコロと破顔するさまに惹かれたのかもしれない。しかし悲しいかな要は野球バカであり、女の子が喜ぶ気のきいた話などとんと思い付かなかった。なんとかひねり出した話題は
「あのっ、これっ、何入っているの?」
川嶋さんの後ろ髪に叩きつけた言葉はどことなく掠れてしまった。
しかし川嶋さんはユルリとこちらを向き、眼をキラッキラさせてやってきた。
「そう!興味持ってくれたんだ!嬉しいな!何が入っているかだね、基本的にはBCAAっていって分岐鎖アミノ酸、すなわちバリン、ロイシン、イソロイシンっていう筋肉のエネルギー源が入っているんだよね!こちらのほうはRCTっていう信憑性の高い調査でも証明されているんだけれども、運動前、運動中にBCAAを摂取することで筋肉の損傷を和らげることができるんだ。BCAAはそれだけじゃないよ!まだまだ研究段階で、ラットに対するデータしかないけれども、BCAAによって脳のエネルギーの消耗をも抑える可能性が示唆されているんだって。理由として考えられているのは、BCAAとトリプトファンっていうアミノ酸は血液脳関門っていう、一種の脳のセキュリティだね、それを通過するときに同じ乗り物を使うんだけど椅子とりゲームみたいなものでBCAAの割合が増えるほどトリプトファンの割合が減るんだ。瀬戸山君は特進だよね?生物選択なら後々、競合的に拮抗するっていう事を習うんだけど、それのことだよ。それで、ええと、そう!脳でトリプトファンっていうのはセロトニンを作るもとになるの。セロトニンってやつは脳の色々な所に影響を与えているみたいで、鬱の原因だとか疲労物質じゃないかとか、ノルアドレナリンと共に生理機能調節システムっていって視床下部ー下垂体ー副腎皮質系で痛みを和らげているんじゃないかとも言われているみたい。結局機能はまだよくわかってないんじゃないかなあ?ま、とりあえずセロトニンの量が減ると脳のエネルギー消費を抑えることができるんだって。逆に脳のエネルギーを使う要素っていうのが、筋肉のエネルギー枯渇、体温の上昇、水分の低下なんだ。考えてみてよ、全部運動で引き起こされることじゃない!それにそう、脳のエネルギーが低下すると当然脳の働きは下がっちゃうよね。脳と野球はあんまり関係無いと思うでしょ?でも12対ある脳神経の2、3、4本目は目に関わる神経なんだよ。目隠ししてバッティングできる人はいないわ。BCAAについてはこんなところ。取りすぎも良くないんじゃないかって説もあるから、商品化されているものを少なめに混ぜたから健康被害の心配はないからね。BCAAの他にビタミンB、Cが入っているの。B3、6、9は過剰症があるみたいだけど、これも心配はないよ。後これはおすすめ、クレアチニンね。クレアチニンは肝臓でリン酸化されて、筋肉に貯えられるの。それで………………