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一日目

突如目眩が僕を襲う。

深夜のアルバイトで寝不足だろうと高をくくっていると、ますます目眩は酷くなり立っていることすらままならない。

電柱にもたれ掛かり、必死にバランスを取ろうとする。

視界が歪んでいくさまは、どこか別の世界に飛ばされてしまうのではないかと思うほど不安な景色だ。

「このまま、死んでしまうのだろうか。」

そんな言葉が頭を過ぎる。心臓は高鳴り、息は上がる。


それから何分たったのだろうか。徐々に視界がクリアになっていくと、目の前には知った顔がこっちを見ていた。

「大丈夫か!いきなりよろけだして…」

耳がキーンとする。彼の大きな声で辺りの人はこちらを向いた。どうやらバランスが取れず、地面に倒れているらしい。

電柱につかりまりながら、ゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫。ちょっと目眩がしただけだよ。」

ちょっとどころの目眩ではなかったが、心配をさせないために嘘をついた。

「本当に、本当か?真横でいきなり倒れたりしたのに、ちょっとなのか?」

彼は嘘に気づいていた。

しかたなく、白状する。彼は怒り、説教をし始めたが今は周りが気になって仕方がない。

倒れていた僕が立ち上がるやいなや、そそくさと歩き始めるサラリーマン。

何が起こったのかよく理解できず、立ち尽くすOL。

しきりに携帯電話をいじりながらこっちを見ている学生。

非日常的な事が起こると人はそれに興味を示し、近づいてみたりする。

近づきすぎると、自身まで巻き込まれてしまうと思うのか一定の距離を保って見続ける。

それをどう捉えるかは人それぞれだが、僕なら近づきもしなければ関わりをたくもない。

面倒ごとは嫌いだ。人と関わりを持つ事自体、面倒だと思う。

だからこそ最小限の人数でしか関わりを持たない。

ある歌に「友達百人できるかな?」なんて言葉があるが、本当に友達が百人もできたら頭がおかしくなりそうだ。

そうこう考えていると、めまいもなくなり頭もスッキリしてきた。

彼の話を軽くあしらい、登校を続ける。

大学が近づくにつれ、彼の世間話も終わりが見てきた。

最初の授業で軽く睡眠をとって体調を整えよう。


それから数分歩いて学校に到着した。

倒れていたからなのか、時間もギリギリで滑り込みセーフと言った所だ。

宣言通り、いくら遅刻しなかったとはいえど寝る気で授業を受ける。

正直、この先生の授業は寝る気がなくても眠くなる。

まるで呪文でも唱えているように話は聞き取りづらい。

大体の生徒はプロジェクターに移された事をノートやパソコンを利用して書き写すだけで話は理解ができていない。

真面目に前の席で必死に耳を傾けた事もあったが、今では後ろのほうで寝ていたりする事が多くなった。

単位は危ういが、落とさなければ良いだろう程度の軽い考えでいるからできる行動だ。

うとうとし始め、机にうつ伏せになる。そのまま夢の世界へ旅立っていった。


「おい、起きろ。授業終わったぞ。次、授業違うから俺は行っちまうからな。」

彼に体を大きく揺さぶられ、無理やり起こさせられた。

「まだ、寝始めたばかりだよ。もう少しだけ。」

そんな事を口にしつつも、時計を見て跳ね起きる。

寝ていたのかわからないぐらい、自分の中での時計は止まっていた。

睡眠とは恐ろしいものだ。目が覚めれば、一時間も二時間もたっている。

あわてて、次の授業がある教室に急いだ。

階段を駆け上がり「間に合った。」と思えたが、まだ頭は寝ていたらしく何の道具も持ってきてないでしぶしぶ前の教室に戻る。

「完全に遅刻だな。」などと、独り言をつぶやいていると授業はどうでもよくなってきて「サボろうかな。」と気がゆるくなる。

私は真面目に生きて行こうとも、ふざけて生きて行こうとも思っていない。

ただ、中途半端にぶらぶらとしていた。今をどのようにするのかそれで精一杯だ。

鞄を回収し、授業をすっぽかして大学を後にした。

大学周辺には大きなショッピングモールがあるので、そこで時間をつぶす事にする。

多くのお店が並ぶなか、書店に足を運ぶ。

ならぶ本を眺め、一冊の本を手にとる。

特に興味はないのだが、何となく手にとって確認をする。

ビニールカバーがついているので、中を読む事はできないのでどんな内容の本かもわからない。

「この本が20万部突破ね…」

本の周りには「読まなきゃ損!」とか「~賞優勝作品!」など、あるが興味がまったくでない。

私が本を買う基準は、タイトルを見て面白そうだなと思ったものを買うからだ。

本を棚に戻し、書店を跡にする。

もともと、目的があってショッピングモールをうろうろしてるわけでないので次に何をするか考える。

休憩所の椅子に腰を掛け、歩き行く人達の姿を眺めていた。

あの服装はないは。ほら、子供が悪戯してるぞ。親はどこにいるんだ。

見るからに馬鹿面だな。こんな時間に小学生が何やってんだ。

カップルがいちゃいちゃして、目が痛くなる。

人を見ているのは好きだ。自分と違うものを持っているからこそ、見ていて飽きない。

とても刺激的で、私の中で様々な物語が展開される。

物語の中心はもちろん私自身である。

ショッピングモールが怪物に襲われて、ヒーローである私が人々を守る。

実はやくざのボスで、これから大きな取引がここで行われる。

ショッピングモールは表の顔で、裏は地球を守る秘密組織なのだ。

妄想に夢を膨らまして、気分もよくなってきた。

時間も良い感じになってきたので、大学に戻るとしよう。

急に立ち上がったからか、目眩がする。

しっかりとバランスを取って、歩き出すと世界が逆さまになった。

何が起きたのか理解できず、ぐるぐると視界は回り、深い深い闇の中へと意識は溶けていった。

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