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初めてその人に出会ったのは7才の時だった。
【全く‥‥困った姫君だ】
彼は膝まずくと、溜め息混じりにあたしの銀髪の頭を優しく撫でた。
実際、あたしは姫君どころか親兄弟さえいない戦争孤児だった。
【私は異形の存在。生者のおまえを連れていく訳にはいかないのだよ】
漠然とした勘だったが、真っ黒な瞳からは完全な拒絶は感じられなかった。
その時のあたしは、その僅かな希望にさえすがりたい無力な子供だった。
彼の下衣の裾を掴んだこの手を絶対離してはならないと思った。
そんな彼とあたしの周りには、無数の屍が転がっていた。
ついでに言うなら、その時のあたしも夥しい量の返り血を浴びて全身が紅く染まっていた。
彼は血で彩られたあたしを見て綺麗だと呟いた。
そしてその後こう続けた。
【紅い姫君、一つおまえと約束しよう‥‥‥‥】
紡がれた短い約束が、あたしの頭の中に刻み込まれた後。
彼はあたしの唇についた血を右手の親指で拭うと、それを自らの唇にゆっくりとなぞってみせた。
色の無い彼の下唇にうっすらと血がつく様に、まるで魂を奪われたかのようにすっかり目が離せなくなっていた。
【これで契約成立だ】
彼はニッと笑うと突然吹き上げた風と共に消えた。
黒い羽を一つ残して。