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にがじん!  作者: なお
9/13

八話

 卵かゆを黙々と口へと頬張る少女。その傍らでは声も出せずにただただその姿を見つめることしか出来ない俺と伸吾が少女の左右へと配置された形である。

 まず始めに驚かされたこととして、この少女が差し出された熱々の食料を手掴みで食そうとしたことである。確かに、世界のとある地域では箸やスプーンなどを使用することなく、素手で食事を行うことが主流である国もあるが、さすがにそこの国民でも振れたら間違いなく火傷をするであろう卵かゆを素手で食そうなどとは考えないと思うんだが。

 俺はそのまま少女の細い指先が卵かゆへと振れる一歩手前でそれを阻止し、なんとか説得しスプーンで食事を口に運ばさせることに成功したわけだが。


「……ごちそうさま」


 差し出された茶碗の中身が空になり、少女はそのままスプーンをちゃぶ台の上へと放置し、そのまま無言で俺の隣へと体を動かし隣り合わせになる形でそこに着席してきた。しつこいようだが再度言っておこう。俺はこの子とは初対面である。


「え〜と……。君、名前は何ていうんだ?」


 何も喋り出さなければこのまま永遠と無言の妖精が我が家を飛び回ることになりそうなのを察し、俺は少女へと聞くタイミングがあきらかに遅いであろう質問を投げかけた。


「ルイ」


「ルイ……それが君の名前か?」


「うん」


「フルネーム教えてもらっていいか?」


「ルイ」


 うーむ。フルネームを教えて欲しいのだが……。『ルイ』だけでは日本人が外国人かもわからんぞ。

 見た目は、うん、多分外国人だろうと思う。ここで『多分』という二文字を使わせてもらったのは、言葉では言い表せないのだがどことなく日本人独特の雰囲気を感じたからだ。


「えーと……じゃあ君は日本人なのか?」


「わからない」


 待て待て。自分の国籍がわからないってのは……どうなんだ?


「ご両親は?」


「いない」


 さらに待て。いるだろ!? いると言ってくれ!


「えーと……じゃあとりあえず警察に連絡をしたほうがいいのか?」


「警察?」


「あー。つまりだな、君のご両親が見つかるまで保護してくれる人のことだな」


「保護する、りゅう」


 と、ここでまた少女は俺のことを『りゅう』と呼び、細い人差し指を俺へと指し示して来た。それと同時に海色の綺麗な瞳が俺の視線と交差を果たし、ついそれから視線を背けてしまった。


「えっとだな、さっきから俺のことを『りゅう』と言っているが、多分人違いだと思うぞ」


「違わない。りゅう」


 と、俺のことを『りゅう』なんだと言い切り、その後黙りこくっている我が悪友へとその視線を移動させ、先ほどまで俺のことを指さしていた人差し指が伸吾へと向けられた。


「えんじ」


「はい?」と、思わず返事を返している我が悪友。


「君は俺と伸吾のことを知っているのか?」


「知っている」


 へぇ。知ってるのか。見たことも聞いたことも記憶にございませんのですが。


「りゅう、私、一緒にいろ、言った」


「……」


 絶対言ってません。


 つまり俺のそっくりさん『りゅう』がこの子の保護者ってことでいいんだよな? そうなるとそのそっくりさんがこの子を探しているんじゃなかろうか?


「つまり保護者の人は居るってことだな」


「りゅう」


 らちがあかん。


「仕方がない。今日はもう遅いし明日一緒に警察に行ってみよう」


「……?」


「今日は家に泊まって行けばいい。安心してくれ、別に何かしようってわけじゃない」


「わかった」


 本当にわかったんだろうか?


「じ……じゃあ俺、そろそろ家帰るッス」


 ここに来ていきなり、本当に唐突に、伸吾の奴が自宅に戻ると言い出した。勘弁してくれ。二人きりにするつもりか? お前も泊まっていけよ。


「頑張れ、りゅう!さらば!」


 と、俺が止めに入る前に奴はその体を素早く立ち上がらせ、まるでカールルイスじゃなかろうかと思うような俊敏さで玄関の扉を駆け抜けて行ってしまった。


 逃げやがったな。


「……」


「……」


 どないせっちゅーねん!!




 俺の人生に訪れるのは早すぎるであろう『マイ・ルームに異性と二人きり』という状況が伸吾の帰宅により見事に構築され、俺は何を話していいのか頭をかかえているわけだが…。

 ふと隣に位置する少女を確認すると、相変わらず俺の首から上を微動だにせずに見つめている。すげー恥ずかしい。


「あー……。とりあえずシャワーでも浴びるか? その服装でいるのもなんだろ? 服も俺のでよけりゃ一式貸してやるよ」


 まずい。やはりダメだ。この二人きりの無音空間に耐えられず声を出してしまった。


「しゃわー?」


 少女は首を僅かばかり左へと傾けた。


「別にやましいこと考えてじゃないぞ?」


「しゃわー、何?」


 おいおい。シャワーが解らないのか?

 見た目俺と同じくらいの年頃だと勝手に思っているんだが、もしかしたら最近の子供達の発育が良いせいなのか、実はもの凄い年下だったりして…。


 勘違いするなよ? 俺はロリコンでは無い。


「体を洗うってことだ。OK?」


「しゃわー……水浴び?」


「そうそう。水浴びだ」


 ここで少女との睨めっこに耐えられなくなった俺は体を立ち上がらせ、素早くバスタオル・Tシャツ・ジーパンを収納場所から引っこ抜き、少女の前へと差し出した。


「これ使いな」


「これ、使う、水浴びに?」


「そうだ」


 少女は俺の用意した三点セットをゆっくりとした動作で優しく持ち上げ、そしてこれまたゆっくりとした動作で立ち上がり、部屋のドアの前まで足音も無く歩み寄ると、そこで一度足を止め俺を再度凝視してきた。


「あー。その先の右側に風呂場があるから」


「…………」


 何故か行こうとしない少女。


「どうした?」


「……りゅう、一緒じゃない?」


 はい?ご一緒していいのかね?しちゃいますよ?やりー♪

 と、言いたいところだ。


「いや……君の国ではどうだか知らないが、この国でいい年した男女が混浴をすると言うのには問題があってだな……」


「一緒、水浴びしない?」


 素晴らしい提案なのは間違いない。まさに夢のような企画だが、ここでYESと答えられるほど俺の理性は愚かでは無さそうだ。


「君一人で行ってきてくれ。わからないことが有ったら声を出してくれれば答える」


「……わかった」


 そういうと少女は未だ俺が目に入るその場で自分の上着に手をかけ――――って! 手をかけ!?


「…………」


 あっと言う間にボロシャツを脱ぎ捨ててしまった。

 しかもその下からは何とも美しい二つのお饅頭(まんじゅう)が。下着すら着用していないらしい。まぁ、一言で言うとだな……





 絶景。





「まてまてまてまて!」


「?」


 何事も無かったかのように無表情で首をかしげる少女。


「ここで脱ぐな! 脱ぐなら洗面所で頼む!」


「せんめんじょ?」


 ああ、神よ……何故私にこのような試練を与えたもうたのか……。


 





人物紹介:アキラ

実名不明、性別不明、年齢不明、職業不明……と、謎に包まれた拓と伸吾のネット友達。

大バカ二人の勉強面を主にカバーしている。


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