四話
今日の授業も全て終了し、全てをやり遂げたと勝手に思い描きながら自分の席で寝起きのためか半ば放心状態の俺へと伸吾が駆け寄ってきた。
「さぁーて。さっき言っていた奴紹介してやるどー♪」
「?」
つい10分ほど前に行われていた授業を夢の世界で過ごしていた俺の脳には、伸吾の言葉に対してハテナマークが飛び出て来る。そんな寝ぼけきった我が頭脳を落ち着いて再起動させ、その言葉の意味を過去から探ってみる。
「…あー。そうか。お前に勉強を教えてくれている人を紹介してくれるんだったな。」
「そういうことよ。はよー帰るぞ同士拓!」
二人の大馬鹿だから『同士』か。否定出来ない自分がこれほどまでに情けないとは…。
俺の机の前面で腕を組みながら待機している伸吾に急かされ、俺は重たい体をノッソノッソと動かし、授業道具を鞄に詰め込む。全ての帰宅準備が終了し、席から立ち上がると一度大きく天井に向かい両手を上げ、背骨をボキボキと鳴らす。
「ンじゃ、行くぞーい。」
「あいよ。」
かくして、本日呪われた課題を不幸にも手にしてしまった勇者、もといアホ二人は校門へと重い足を運んだ。
玄関へとたどり着くと、そこには見慣れた一人の男が突っ立っているのが目につき、そいつは俺達二人を見つけるとニヤニヤとしながらこちらへと向かって来て口を開いた。
「諸君。本日竹田から大量の課題をもらい受けたらしいじゃないか。」
「知っているなら話は早い。俺達はこれからそれを片付けなければならん。竹田の課題だけはお前に頼るわけにもいかないしな。」
その俺の言葉に伸吾が横から声を出して来る。
「あら。ついでだから黒須も来るか?多分つまらないことでは無いと思うぞー。ぬふふふ♪」
「ほう。都合が良いことに本日はオレも暇を持て余しているのである。同行させてもらうとしよう。」
これを聞き、俺がすかさず突っ込みを入れる。
「まて。なんで勉強がつまらなくないんだ?おかしいだろ。」
「まぁまぁ拓のぼっちゃん♪そう言わずついて来なさいな♪」
流れのまま、馬鹿二人+1は伸吾に連れられ学校を後にすることとなってしまった。
「それで伸吾よ。何処に向かっているのだね?」
帰り道を歩みながら、馬鹿二人とは頭の出来が違う奴が伸吾に対し当然の疑問をぶつけて来た。
さて、以前話した『もう一人の悪友』がこいつ、黒須博喜である。こいつは伸吾ほど付き合いは長くはないが、それでも小学校からの友人だ。頭が抜群によく、背が高く、顔立ちも良く、運動神経もそこそこ、さらに家が金持ちというドラ○もんで言う『できすぎ君』のような奴だ。ウチの高校には1〜3年共通テストというありえない行事があり、黒須は毎回それで全校2位という俺達には手の届かない脳細胞の持ち主だ。まぁ、俺と伸吾の順位は…予想してくれよな?
今挙げたことだけならば、こいつは何も欠点の無い素晴らしい人間なのだが、世の中そう都合良く行くわけがなく…こいつには一つ、どうしようもないことがある。それは性格だ。この黒須博喜という人物は『お祭り事』が大好きなのである。それが野次馬で終わったりするのならなんら問題無いのだが、こいつはそれに対し必ず目立つような何かをやりたがる。俺を巻き込んでな。
良い例として去年の体育祭だ。黒須は何を思ったか、体育祭が終了したと同時に放送室へと駆け上がり、格闘大会開始を宣言しやがった。そしていつも黒須が起こすめちゃくちゃな行動にノリノリでついて行く伸吾に半ば無理矢理俺も参加させられるわけである。ちなみにその時は俺達二人により3分でグラウンドにリングが設置され、教師や生徒会が止める間もなくエントリーを集い開始された。さらに付け加えると賞品も黒須の自腹で用意されていた。黒須のこの暴挙はこれが始めてではないので誰も驚かなかったけどな。そしてさらにさらに付け加えると俺と伸吾もその格闘大会に無理矢理エントリーされたんだが…。ちなみに体育会系は教師の目も有りこれには参加して来なく、腕っ節に自信のありそうな帰宅部の連中が数人エントリーしたのだが、最終的に行われたのが、決勝戦『俺vs伸吾』。
…アホか。
さて、話をもとに戻すが、何処に向かっているのかは俺も伸吾に問いたいところだ。何処だ?
「お前ん家。」
「俺の家か…。」
と、俺。
…はい?
「ほう。拓家に面白いことが有るわけだな。期待するとしよう。」
期待するなよ。意味わかんねーよ。お前も何回も俺の家に来ただろ?おかしいだろ。何で伸吾の知り合いが俺の家と関係あるのさ。
そんな唖然とした表情と、規格外生物を見る目つきで伸吾に白い目線を送っていた俺を見た伸吾がニヤリと口元を右に傾かせる。
「まぁ落ち着きなさいよ拓さん。行けばわかるって。」
「…頼むから何もおこさないでくれよ。」
「何を言うか拓よ!何か予知せぬことが起こるからこの世は楽しいのであるぞ!」
薄笑いを浮かべる伸吾、何に期待しているのかはわからないが瞳が輝いている黒須、そして肩を極限まで下に降ろす俺の三色同行は様々な思考を巡らせ俺の家へと向かった。