三話
買い物を終え、自宅に戻るとなんと言うか…安堵感と達成感が沸いてくると思わないか?え、思わないって?俺だけかよ…。まぁ、そういうことで片手にビニール袋を抱え、俺達二人は自宅へと帰還した。さっそく購入した駄菓子やら飲料水やらをテレビを見つつ貪る。
観覧していた番組も終演を迎え、テレビから発せられる聞き慣れた音楽以外は流れていない我が家に、伸吾が俺の方向へと顔を向け、新しい音を口から放出してきた。
「はてさて。拓くん、そろそろ彼に会いに行こうじゃないか。」
その言葉にアグラを崩さず両腕だけを大きく天井へと伸ばし、一度背筋を伸ばす俺。それと同じくしてデカイ欠伸が喉から飛び出して来たが、それを気にする伸吾では無いことはもうわかっているだろう。そんなことをしている間に伸吾はパソコンの前へと移動を完了し、起動ボタンへと手をかけていた。
「って、ことでスイッチオン♪」
手慣れた手つきで我が家の数少ない電気機器であるパソコンのスイッチを入れる伸吾。勝手にいじるなと言ってやりたいが、すでに見慣れた光景なので何も言わない。甘いな…俺。
ピー……ピピッ。
起動を強要されたパソコンが、不規則な間隔で機械音を出し始めた。仕方がない、付き合ってやるか。
起動中である音がパソコンから鳴りやみ、デスク購入時におまけで付属されていた椅子へと座る。……と、思ったがそれに割り込む形で伸吾のやつが着席してしまった。人間「遠慮」ってものが大切だと思うんだが。
が、伸吾はそんなことを気に止める様子はまったく無く、素早い手つきでマウスを滑らせチャットソフトを起動させていた。
SINGO>いるかいなー?
と、パソコン画面へと文字を書きつづり、相手からの反応が無いことを確認すると一度俺の方向へと正面を向ける。
「さて、応答待ちですな。」
「そうだな。俺はテレビでも見ているよ。」
「ダメだ。お前が居ないと盛り上がらないでしょ!?」
なんでやねん。
さて、何故伸吾の奴がパソコンをいじり始めたかというと、実は俺と伸吾がピンチの時頼りになる仲間が他に存在する…まぁ、主に宿題やら課題やらだが。そしてさらに言うと、そいつの顔も知らないし年齢も知らない。つまり、言うなればネット内での知り合いってことだ。
一日一度はそいつとチャットをするという動作が俺達の間では日課となってしまっているため、いきなり伸吾がパソコンを起動させようと驚かないのである。ま、そいつとの普段のチャット内容はただただ面白可笑しく永遠と無駄話を書きつづるだけなんだがな。
俺とそいつとの出会いは3ヶ月ほど前にさかのぼる。まぁ伸吾の奴は前々から知り合いだったらしいけどな。そん時のことはよく覚えているさ…それはテストに悩まされ、ヒィヒィ言いながらギリギリで高校二年へと進学でき、そしてようやく安息を手にした二年授業開始日の僅か三日後…神に見放されし馬鹿二人に数学担任教師から早速宿題山盛りがプレゼントされた時だ。その難易度の高さに腰を抜かしたね。あれだ、『何が解らないのかもわからない』ってやつだ。さらに付け加えるとその量は半端ではなく、とてもじゃないが提出規定日に間に合うなんてことは奇跡が起こらないと無理だと思ったね。
俺がそんな暗澹たる気分で自分の席で凝固し、提出された課題と睨めっこをしているとき馬鹿一号である伸吾が俺のもとへと掛けより、満面の笑みで肩をポンと叩いて来た。
「どうしたんだね?マイ・ディア・フレンド。深刻なお顔をなされて。」
こいつ…俺を上回る大馬鹿だというのに余裕綽々だな。
「今日提出された課題のことを考えてたんだよ。」
「ああ、あの数学の。」
「お前も同じのがあるだろ?どうするつもりなんだ?」
「教えてもらうさ♪」
先に言っておくが、我が高のほこる鬼の数学教師竹田は他人の答えを写したことがわかると、それとは違う問題プリントを三倍の量で写した者、写させた者両方に差し渡して来る素晴らしい鬼畜教師である。それさえ無ければ俺達馬鹿二人をこれまで手助けしてくれていた悪友がもう一人居るのだが、今年はそいつに助けてもらうことは無いものと考えたほうが良さそうである。そして、すでに伸吾も竹田から課題三倍の制裁を一度頂戴しているため、他人の答えをそのまま丸写しなど出来ないことは承知しているはずである。
とりあえず疑問に思った俺は、当然の問を投げかけてみることにした。
「誰に?」
出来れば俺にも紹介してほしい。
「まだ見ぬ心の友にさ。」
「そうか。それで誰に教えてもらうんだ?」
「だからまだ見ぬ友にさ。」
こいつ…殴っていいかな?
「…ならそいつを俺に紹介してくれ。」
これから始まる数字と暮らす日々を考え、それに頭痛を走らせつつ冗談半分に低い声で言う俺。
「おお。お前なら別にいいぞ。」
そうか…いいのか。…は?
「…まて。今までのお前の言葉を整理すると、その相手のことはまだ見たことも無いんだよな?そんな奴をどうやって紹介するつもりだ?」
「帰ってからの、お・た・の・し・み♪」
舌をペロっと口の右側に出し、某お菓子製品社のマスコットキャラクター『ぺ○ちゃん』を意識したであろう動作をする伸吾。ハッキリ言って心配だ。
そうしている内に、短い休み時間終了の合図が教室へと響き渡り、伸吾は自分の席へとヘラヘラしながら戻って行った。仕方がない、今は授業に集中するとしよう。
…伸吾が脳内で現実に存在しない人物を作り出していないことを信じて。
人物紹介:青柳 伸吾
主人公の悪友一号。運動神経は良いが、授業成績は下の下。根は悪い奴では無いのだが、お調子者で時折女言葉をしゃべり出すと、激しく気持ちの悪い動作を多々取る。
密かな特技として一般主婦顔負けの料理技術を持つ。