二話
スーパー・コンビニが近く、そして長年つるんでいる悪友達の家々の丁度中間に位置するのが我が家だ。
そんな最高の立地条件もあり、俺の家はまさに溜まり場となってしまっているわけだ。なんて都合のいい家だろう。
さて、本日も伸吾特製の料理を胃に満たし、野郎二人は散歩もかねてコンビニへと足を運んでいた。すでに時刻も夜8時を回っており景色も薄暗く、日本の上空を闇色に染めている途中のようだ。
俺と伸吾はいつものように無駄話をくっちゃべりながら、もの凄いローペースでコンビニへと続く道を歩んでいた。
「あーあ・・・なんでその万引き犯の顔を君は拝まなかったのさ・・・」
歩きつつ晩飯中の会話を伸吾の奴が蒸し返して来た。その俺を見る目はまるで、慌てふためく無能新人店員を見つめる客のような表情だ。素直にむかつく。
「なんでそれがそんなに重要なんだよ。」
「当たり前だろ!」
いや、どうでもいいだろ。
「もしもお前がその子の顔面を確認していたとしよう。そしてその子がもの凄い俺の好みだったとしよう。さらに性格もよかったとしよう。」
妄想の中だけの娘がこいつの中で着々と出来上がってきているらしい。
「それで仕方が無く万引きをしていたとしよう。まぁあれだ、家の事情とかそういったことでだ。」
「それでどうするんだ?」
「はぁ…ここまで話してもまだわからないのかい?本当につかえない子ねぇ。」
「体が目的なのか?」
「それも無いとは言い切れん。だがな、真の目的は俺の素晴らしい性格でその子を正しい道に戻してやり、そしてそこから始まる二人のラブストーリーが目的なんだよ。」
素晴らしい想像力だ。いや、妄想力だ。
「そんな夢のある未来が俺を待っていたのに・・・お前のせいで・・・」
「なんで俺のせいなんだよ。」
「俺とまだ見ぬ彼女の未来を傷つけたからさ。」
知るか。
会話をしていて気が付かなかったが、すでに俺達二人はコンビニの目の前へと到着を果たしていた。ここが田舎だからと言うこともあるせいか、この時間になっても客は1〜2人しか確認出来ない。正直、いつ無くなっていても動揺することは無いだろう。
そんな孤独感が溢れそうなコンビニの外に配置されているベンチで、腰を落ち着かせている一つの人影が目に飛び込んで来た。正直、目を疑ったね。あんな姿の、同じ女性をまさか日に二度も拝めるとは思ってもみなかったからな。ここで言っておくが『同じ女性』だと認識出来たのは、その女性の服装を落ち着いた状況で確認することが可能であったためだ。
穴が開き裾がボロボロに解れたズボン、シミが目立って肉眼で確認出来る黄ばんだTシャツ、そして靴下も着用していない足下。こんな奇抜的なファッションセンスの女の子は普通居ないだろ?居たとしたらそいつは相当おめでたい思考の持ち主か、またはバカかのどっちかだ。
相手が静止しているってこともあり、学校の帰り道には見れなかったそのお顔を拝借することにしましょう。まぁ、凝視はしてないぞ。あくまでチラッと見る程度にだ。ここ重要。
その女の子の顔立ちは一言で表すなら『外国人』となる。誰が見ても日本人とは思えないような整った顔立ち、マツゲが長くぱっちりと大きく少々つり上がった瞳、その瞳とほんの僅かばかりの間隔を開けたキリっとした眉、小鼻だが形のよろしい鼻、うっすらと光が反射しそうな唇、そしてやはりこれが一番印象に残ると思うが銀髪のセミロングの髪、だが、何処か日本人の雰囲気を醸し出している顔面だ。どちらかというと『綺麗』と言う単語よりも『可愛い』という単語が当たっているな。そんな顔立ちの良さとボロボロの衣服が神秘的な風景をそこに作り出している。
そんな光り輝くようなオーロラをユラユラと発している女の子は俺達二人の存在に気が付かず、ピクリとも身体を動かすことなく、一人虚ろな目つきで空を見上げて居た。
「おい拓…あの子可愛くないか?」
神々しい雰囲気をぶち壊す欲望たっぷりの伸吾の言葉が耳へと侵入。
その言葉にもしっかりと答えてやる優しい俺。女の子を拝むのは二度目ってのは内緒にしてだが。こいつに話すとまた暴走しそうなんでな。
「…でも服装はどうなんだ?あれは有りか?」
「顔面良ければ全て良し。」
鏡見たことあるか?とは言えない善良な俺。
「俺声かけてみようかなぁ。」
「買い物が目的だろ?さっさと店入るぞ。」
「拓君のいけずぅ〜。」
伸吾は体をクネクネと波打つように左右に動作させ、寒気を催すような口調でそう言って来た。果てしなく気持ち悪い。
ついつい店の外で足止めをしてしまっていた俺は半ば無理矢理伸吾を店内へと押し込み、菓子を少々と飲料水を購入した。その後レジに向かった伸吾はさらにプラスして肉まんまで買っていたが、俺の腹はすでに何も侵入させるなと叫いていたので遠慮させてもらった。
先に店外へと出、ふと先ほどの女の子へと目線を向けて見ると、彼女は先ほど見たままの姿勢を保ったまま未だ空を見つめていた。
(あの服装は家庭の事情かな?)
そんな無駄だと分かり切っている他人の事情を考えている間に伸吾が店外へとやってきた。
そして店の入り口付近に設置されているゴミ箱で肉まんの包み紙をはぎ取ると、むしゃむしゃとそれを頬張り始めた。
「家で食えよ。」
「バカ。外で食うから美味いんだよ。こういうのは。」
満面の笑みで肉まんを胃袋へと流し込んでいる伸吾。
俺は小さなため息をつき、両の足を前へと出した。それを合図に伸吾も足を動かし始める。
「…なぁ。あの子、やっぱり俺に気があるんじゃないかと思うのよね。」
「ベンチに座っている奴のことか?」
店の方向には振り向かず、それとは反対方向に向いたまま話す二人。ここで伸吾の奴がベンチの方向へとアゴを僅かばかりに動作させながら言葉を並べた。
「さりげなく見てみ。あくまでさりげなくだぞ?チラッとだ。」
どうやら見てみろと言う合図らしい。俺は仕方なく横流しの目で指し示す方向へと瞳を向けて見た。
「・・・・・」
先ほどまでは微動だにしていなかった女の子が、子供がディスプレイにある欲しい玩具を見つめているような瞳で俺達二人を凝視していることに気が付いた。
「な?な?やっぱ俺に興味があるんじゃないかな?これから恋物語が始まるって合図じゃないかな?」
無い。絶対無い。
しかし、確かに俺達二人を凝視していることに間違いはないようだ。ちょっと視線が痛いぞ。すぐさま退散するのが吉と出た。
「…さて、帰るぞ。」
俺は再び前方を見つめるようにし、関わらないほうが良いと言わんばかりに歩き出す。
「もう!あんたはなんでそんな無関心で居られるの!?信じられないわ!」
またも悪寒を催す言葉を放つ伸吾を無視し、俺は二本足の速度を僅かに上げ帰路を歩んだ。
人物紹介:大矢 拓
主人公。NOとは言えない日本人の代表的性格である。運動神経はすこぶる良いものの、頭の出来は中の下。顔立ちは良いので女性から人気もあるが、本人はまったく気が付いていない。




