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にがじん!  作者: なお
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十二話

 いやぁ、今日も良い天気だ。


「そうであるな。良い天気の時は心まで浮かれてしまうものである」


「くそ。何でお日様はこうも毎日上がってくるかねぇ。眠いぞチクショー!」


 まるで模範生ではないか、と思うくらい立派に学生服を着こなしている黒須と、まるで馬鹿丸出しの小坊主ではないか、と思うくらいだらしなく学生服を着こなしている伸吾と共に、学校へと続く道をうっちらうっちらと歩いていた。

 むろん、謎の美少女ルイも、この時ばかりは俺の隣にはいない。


 

 昨日の晩、俺が脂汗ダラダラになりながら頭を抱えている姿に見かねた黒須が、神の一言を俺に頂戴してくれたためだ。

「仕方があるまいな。島田さんに頼んでやろう」と……。

 『島田さん』とは、本名「島田(しまだ) 麗子(れいこ)」と言い、黒須家でホームヘルパーの仕事をなさっているお方だ。流行の言葉で言い表すと『メイド』である。俺や伸吾も時々黒須家にお邪魔しているので、顔を合わすと世間話なんかもする。まぁ、さすがに始めてその仕事姿をお目にしたときは仰天させてもらったが。まさか現実であんなにまで見事に『メイド服』と呼ばれる代物を着こなしている人物がいるとは到底思わんかったからな。そんな島田さんがルイの面倒を見てくれるかもしれないのだ! ぶっちゃけ非常に助かる! 

 黒須が電話をし始めてから約3分後、無事に島田さんからOKサインを貰うことができ、その日俺は人生で幾度と無い安息のため息を盛大に吐き出したのだった。


 さて、これで一つの問題は解決されたわけだが、もう一つの議題は解決していなかった。

 『俺の両親に、この状況をどう説明するか』で、ある。

 このまま言わないままにしておこうともしたが、もしかしたら親がルイについて何か知っているかもしれないという少なすぎる希望に賭け電話をしてみたのだが、予想外の返事……と、いうか勘違いの返事が返って来てしまったのである。

 「あら♪ ついに拓にも彼女が出来たのね。 お母さん達は応援するから頑張りなさい!」だとよ。もちろんルイについての詳細はまったく知らないようであった。

 死力をつくして否定し続けたが、我が両親にその言葉は届かず、警察だけではなく両親までも公認の同棲生活が決定したのだ。

 まぁ、とりあえず目の前の問題は解決したので良しとしよう。



 そんなことで悩みも無事解決し、俺はいつも以上に軽快に学校へと続く道のりを歩んでいるところだ。


「この礼は文化祭での働きに期待しているぞ、拓よ」


 と、黒須が口元を僅かに右に上げ語りかけて来た。

 あぁ、忘れてたな。そういや文化祭が近づいて来てたな。仕方がない、今回ばかりは黒須に迷惑かけたし俺も積極的に付き合うとしよう。持つべき物は友だね、うん。


「そうだぞ拓! 俺の手となり足となり働くのよん♪」


 伸吾は後で泣かそう。




 さて、学校へ到着すると、どういう訳か俺のクラスはいつも以上に活気に満ちあふれているではあるまいか。

 男子はグループを作りほぼ全員がニヤニヤと顔を緩め、女子はニコニコと期待を寄せる表情を作っている。何事だ?


「よう。なんだか今日は妙に周りのテンションが高いな。何かあるのか?」


 と、俺は隣の席に位置する 小泉(こいずみ) 恵美(えみ) に理由を聞いてみた。

 空手道場の娘であるこいつは、どちらかというと男と話しているほうが多い。そのためか俺や伸吾とも気が合い、いつもつるむようになったのだ。一応伝えておくが、喧嘩は滅法お強いやんちゃ娘だ。


「へ? 何あんた、知らないの? 青柳(伸吾のことだ)も一緒だから知ってるもんだと思ってたんだけど」


「知らねーよ。伸吾がわかりそうなこと……女絡みか?」


 冗談ぽく言ってみた。


「なんだ。知ってるじゃないの」


 はい? マジで♀関係ですか?


「今日転校生が来るのよ。もちろん女の子ね。だから男子の連中あんなに鼻の下伸ばしてんでしょ」


「へぇ」


「あら? 思ったよりも反応小さいわね」


 そりゃそうだ。一昨日から女難で苦労してばかりだからな。嬉しいとは思えん。


「マジで!?」


 俺が何事も無かったかのように自分の席へ着席しようとすると、俺や小泉の声ではない聞き慣れた音声が喧しく耳へと入ってきた。

 ふと後ろに目をやると、伸吾が目を見開いて声を張り上げていた。


「小泉! その話マジか!? このクラスに転校生が来るかぁぁ!?」


 獣みたいになってやがる。


「本当よ。しっかし……女好きの青柳が知らないとは思わなかったわ」


「知らないぞぉ! それで、その転校生は可愛いのか!?」


「さぁ。でも、チラっと見た子の情報によると、結構可愛いらしいわよ。ま、あんた達ズッコケトリオにはこの小泉様がいてあげるから安心しな♪」


「けっ」


 伸吾は、汚い物を見るような目で舌打ちをした。命知らずな奴は嫌いじゃないぜ。


「あんた、後で体育館裏まで来いや」


 と、女性が放つ言葉使いでは無いような威圧感たっぷりの言詞を小泉は笑顔で口に出してきた。

 顔は結構良い物を持っているのにこの性格が災いしてか、伸吾ですら小泉にはデレデレしない。


「一人で行ってらっさーい♪」と、命知らずが返答した。


 プチっ。


 あ、聞き慣れた血管破裂音が聞こえたぞ。むろん、小泉の。

 座っていた小泉はゆっくりと席から立ち上がり、伸吾の目の前でファイティングポーズをとった。そしてそのまま両腕を交互に前に突き出し、拳の散弾銃を目にも止まらぬ速さで発射していた。


「だあああああ!」


 あら嫌だ。腕が十本に見えますわ。


「甘い! まるでショートケーキのように甘いぞ小森! そんなワンパターンな攻撃、この伸吾さまに当たるわけないじゃろ! うははははは」


 そんな小泉の残像すら残してしまう拳の嵐を伸吾は紙一重で避け続けている。まぁ、いつもの光景だな。


 メキョ♪


 あ……ついに小泉のストレートパンチが直撃したぞ。


「ばふんうに!」


 奇声を放ち、伸吾は星になった。

 無茶しやがって……。


「ちっとは相手選べや、このアホ」


 勝者の決め台詞。


 さすがの運動神経良好の伸吾も、空手娘には勝てないか。永久に、そして安良かに眠ってくれ。



 さて、静かになったことだし教師が来るまで黒須の奴と無駄話でもしているとするかな。






 


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